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生物が「変化」するもう一つの仕組みと進化

進化と言えば遺伝子が思い浮かびますが、生物は遺伝子だけで決まるものではありません。育つ環境によって生物の性質が変化することが知られています。このような環境による生物の変化に焦点を当てたのが、今回紹介する『表現型可塑性の生物学』と言う本です。

進化による変化と育ちによる変化、この二重の変化はそれぞれどのように関連し合っているのでしょうか。今回は育ちと進化の関係について図解しながら紹介します。

表現型可塑性

遺伝子は生物の形質において重要な役割を果たします。しかし双子が全く同じ人に育つわけでは無いように、遺伝子によって全てが決定されるわけではありません。生物は育った環境に応じて様々な形質を表出することが知られています。

このように遺伝子は同じでも現れる形質(表現型)が変わることを「表現型可塑性」と呼びます。身近な表現型可塑性の例としては筋トレが挙げられます。筋トレをすることで筋肉がつきますが、これは肉体を負荷のかかる環境に置くことによって生じた表現型可塑性と見ることができます。

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リアクションノーム

表現型可塑性の現れ方には個体差があります。例えば、同じ筋トレのメニューをこなしてもある人はすぐに筋肉がつくのに、別の人はなかなか筋肉がつかないと言うことがあります。環境に応じた表現形の変化の仕方は「リアクションノーム」と呼ばれます。

このリアクションノームは遺伝子によって決まると考えられます。ある努力がすぐに結果に結びつく早熟な人だったり、なかなか結果に結びつかない晩成型の人であるということが遺伝子によって決まります。人がどれだけ手をバタバタさせても空を飛べるようにならないのは、そのようなリアクションノームを持っていないからです。

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進化の二つの車輪

ここまでで表現型可塑性と遺伝子の役割が何となく見えてきました。表現型可塑性は育つ環境によって形質を変え、遺伝子はその変わり方を決定します。

新しい環境に遭遇した時、生物は最初に表現型可塑性による適応を試みます。この表現型可塑性による環境への適応のことを「表現型順応」と呼びます。

この時、表現型順応できるリアクションノームを持つ遺伝子が生き残りやすくなります。このためリアクションノームの選別と言う形で遺伝子の変化が進みます。その結果、安定して新しい表現型を表出するような遺伝子が生み出されます。このような環境に適応した遺伝子の変化を「遺伝型順応」と呼びます。

生物の進化はこの表現型順応と遺伝型順応の2つの車輪で動かされます。

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進化のジャンプのために

表現型可塑性の進化におけるもう一つの興味深い役割を紹介します。これは「促進変異理論」と呼ばれる考え方です。ざっくり言うと「表現型可塑性が遺伝型の変異を加速させるのに貢献している」と言う考え方です。

進化の動力は遺伝子の突然変異によるところが大きいです。ところが突然変異には生物にとって極めて不利な変異も多く存在します。精密な機械の設計図が少しでも汚れていれば、動く機械を作る事は難しくなるでしょう。

それでは、どうして生物は全く別の種に進化するほどの変異を生み出すことができるのでしょうか。そこで表現型可塑性が登場します。

表現型可塑性のおかげで、たとえ遺伝子が変わったとしても環境に適応した表現型が出現します。この時、変異を含んだ遺伝子は次の世代に無事持ち越されます。

このように表現型可塑性が頑張ってくれている間に、裏で遺伝型の変異を蓄積することができます。これにより全く異なる遺伝形を持つ新しい生物の進化を可能にするのです。

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まとめ

表現型可塑性と進化の関係について図解しながらまとめました。本書では、具体的な生物の表現型可塑性の例がたくさん紹介されていますので、興味をもたれた方はぜひご一読下さい。


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