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今宵はどんなお酒を送ろうか

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日本酒×薬剤師の読み切り短編小説。 差出人不明、見知らぬ酒屋から会津の日本酒が各章、薬剤師の主人公に送られてくる。 薬剤師の日々を日本酒を通じて表現したヒューマンストーリー。
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2022年11月の記事一覧

3.大和撫子と会津中将(前編)

3.大和撫子と会津中将(前編)

握り締めた退職届に汗さえ滲まない。
それくらい、この会社には冷めたのだと思う。

愛社精神はそれなりにあったはずだった。
10年以上もこの会社にいたのに。

私が今しようとしてることは、今まで自分が信じていたものと縁を切る行為だ。でも、私の心の紐をプツンと切っていったのはそっちでしょう。

転職は恋愛と似ている。
価値観が合って自分が居心地良くいられる場所を求めて、またそこへ羽根を広げて飛んでいく

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3.大和撫子と会津中将(後編)

3.大和撫子と会津中将(後編)

「伊根で船越さんが私に見てもらいたいものって何なんだろう…」

昨日の夜は久しぶりに気持ちが軽くなった。そんな飲み会だった。
一晩あけて翌日、船越と待ち合わせしている天橋立駅へ友里恵は車を走らせる。

天橋立駅に着いて船越の姿はすぐ見つけることが出来た。

「おはようございます」

車を一旦停めて友里恵が車に乗っていた船越に声をかける。

「友里恵さん、おはよう。今日は付き合わせてごめんねー!ここ

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4.女神とロ万(前編)

4.女神とロ万(前編)

「ちょっと変わった子だなぁ…大丈夫かなぁ」

ふうーっと深いため息をついて白衣を着た男性は首を傾げながら足早に歩いていく。

病院にしては珍しい円柱状の建物。
男性が歩いている通路はその建物から古い校舎のような建物に続いている。

霞ヶ丘酒井総合病院の薬剤部はその奥にあった。

総合病院の薬剤部はどこも地下だとか建物の奥だとか何故か陰気くさい場所に位置することが多い。
まるで、すみっこに追いやられ

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