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#85 『一切れのパン』

中学の国語の教科書に載っていた話が、時々、フッと思いだされる時があります。記憶しているあらすじは、およそ以下のとうり。

 第二次世界大戦中にドイツ軍に捕らえられた主人公が、輸送中の貨車から逃げ出すとき、布にくるんだ”一切れのパン”を渡され「ぎりぎりまでは食べないで」と言われ苦難の逃避行が始まった。何度も包みを開けたくなったけれど、(あともう少し、あそこまで行ったらパンを食べよう)と自分を励ましながら、最後まで包みを開けずにやっとの思いで無事自宅に帰り着いた時、奥さんの前で「この一切れのパンのおかげで家までたどり着けた」と言って包みを開けたら、一切れの木片がコロンとテーブルに転がり出てきたというお話でした。

 時々、(あぁー、もぉぅー、なんとかぁなぁらぁんかぁーいぃ?)と思うときありますよね。時々(?)、あります。そんな時に、国語の教科書で読んだ『一切れのパン』が頭をよぎります。(あともう少し、あそこまで頑張ってみようかなぁ。それから、どうするかもう一度考えよう。)と言いながら、ほとんどの場合は最後まで目の前のヤッカイナことをやり遂げてきました。だまされたと思って、一度その方式採用してみることをお勧めします。

 登山をしていると、登りの途中でバテることがたまにあります。バテない工夫は、人いろいろかと思います。私の場合は、まず、息をする速さで特に最初はゆっくり登ること。できるだけ景色や鳥のさえずり、途中に咲いている草花を見て楽しむこと。里山のような低山では、ウグイスの鳴きまねをして口笛を吹くこと。春先だと、ホンモノのウグイスが返事(なわばりに侵入するなと言う警告?)で返してくれます。しばらくは、口笛のキャッチボールを楽しみながら山を登れます。なによりも、一度バテたことがあると、そのバテの原因を分析して、次にはそうならないようにすることがあります。寝不足、食後すぐの運動、オーバーペース、などなど。限界を知っていると、備えることができますね。可能であれば、登る山の地図を事前に購入して、等高線の間隔で傾斜を推定したり、上りと下りのコースタイムの差を見ると上りのこう配の予想がつきます。登山コースの途中に、水場の記号があれば、晴天続きでなければたぶん飲み水が確保できるので、荷物の中の水タンクを軽くすることが期待できます。

 人生は登山と一緒かは分かりませんが、楽しいことだけではなく不測なトラブルに対応する能力が要求されたり、自分のことは自分でやり抜くだけの体力と気力が必要なところは一緒かと思います。”木片”を”パン”と思えるかどうかは難しいかもしれませんが、自分にとっての『一切れのパン』を如何にたくさん持っているかがバテないために必要かと思います。

 最近思うのは、あの「一切れのパン」を渡した貨車の中の老人の気持ちです。人を救える言葉の力を知っていたエライ人だなーと思います。そんな人になりたいものです。