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物語は続く|金銭的自立と金銭的孤立

このエッセイは2022年3月4日開催『月の正夢』で発売されたエッセイ集に掲載されています。


 西村亮哉くんから「月の正夢に向けて、大切な人との気づきをテーマにエッセイを書いてほしい」と頼まれた。
 彼とは、四年前に『物語は続く』と名付けられた企画で共演して以来、お互いが必要だと感じるその時々で関わり続けている。
 彼は、私にとって大切な人で、彼にとっても、私は大切な人だと思う。
 今回は、彼とのやり取りから得た気づきをエッセイに書こうと思う。



 先月読んだある漫画をきっかけに、なりたい女性像について考えていた。

 素直な女性。自由な女性。似合う身なりや心地よい佇まいをする、美しく可愛い女性。察すことを求めず、自ら伝える努力をする女性。
 なりたい女性像とその理由を、勢いよくノートに書き散らしていく。

 そんな中で『自立した女性』と書きながら、何を持って自立と呼ぶのか、今の私が理想とする自立はどんな形をしているのか、はっきりしていないと自覚し、掘り下げることにした。


「なりたい女性像を考えている時に『自立』というキーワードがあった。理解を深める為に、対義語の依存について考えてたら、積極性依存と消極性依存があるなと思った。」

 数ヶ月前に、亮哉くんが「自立とは依存先を増やすことだ」と話していたことを思い出し、メッセージを送る。
 すると「自分なら『自立』の対義語に何を取るかなと考えたところ『孤立』という言葉が出てきた。」と返事があった。

 改めて調べると、自立とは「他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること」だと広辞苑に書かれている。
 依存は「他のものをたよりとして存在すること」と、孤立は「他とかけはなれてそれだけであること。ただひとりで助けのないこと」だと書かれている。

 私なりに、自立を「その時々で自分を受け入れ、選択肢を複数持ち、選択の仕方を自分で判断すること」、孤立を「選択肢がひとつしかないこと・ひとりだけを頼ること・ひとりで居ることしか選択肢にできないこと」と読み替えると、彼が自立の対義語が孤立だと考える理由も段々と見えてくる。

 新たに見えた自立の意味から『自立した女性』について考えていると、お金を持つことで選択肢を増やし、物理的にも精神的にも豊かである女性像が浮かび上がってきた。

 さらに考えていると「お金を受け取るという選択肢を肯定し、選択できること」こそが、金銭的自立だと思うようになった。

 そして、今の私が考え得る金銭的自立とは
「社会から金銭を受け取り、必要な機会には対価を支払う」
「家族や親族から金銭的補助を受け、次の世代へ繋いでいく」
「結婚し家庭を持った時には、金銭的に支え合う」
の三つの側面があることが分かった。

 資格や技術や生産性を持ち、人より優れていて、相手や社会へ貢献できないと、お金を受け取るべきではないと思っていた。
 けれど、それをし続けると、結果として対価による評価を受け入れないことになり、金銭的孤立を生んでしまう。
 さらに、お金を受け取れないまま過ごすと、必要な時に支払うことも出来なくなり、場合によっては誰かを金銭的孤立にさせてしまうかもしれない。

 家族や親族から金銭的補助を受けることは、恥ずかしいことだと思っていた。
 勿論、自分の力で賄うことも重要だけれど、自分だけでどうにかしようとして選択肢を手放したり持てなかったりすることは、金銭的孤立に繋がると思う。
 そして、金銭的補助へ批判的な目を持ち続けていると、家族や親族から補助を受ける人、いつか産まれてくる自分の子を、金銭的孤立にさせてしまう可能性がある。

 男性と比べて女性の平均生涯年収が低いこと、妊娠出産育児の期間は思うように働けないこと、そういう要素を持った女性として生まれた自分を情けなく思っていた。
 将来を考える恋人に対して、申し訳なく思っていた。
 けれど、冷静に考えれば、母親や世の女性に対して、情けなさを感じているわけではない。
 寧ろ、恋愛関係や家庭の中で女性にしか生めない豊かさがあり、それらが結果として社会へ豊かさを残していくと思っている。
 家庭の中で収入を共有することを否定し続けていると、いつか自分だけでなく相手までも金銭的孤立にさせてしまうかもしれない。


 亮哉くんは、この話を聞いて、彼自身の経験や過去に見聞きした金銭的自立の話をしてくれた。

 彼は、金銭的なものに限らず、人との関わりの時間軸を広く見ているように思う。
 彼の生き方からは、豊かさは贈りたい時に惜しみなく贈り、必要な機会には前向きに享受し、また惜しみなく贈るような、一時的ではない豊かさのやり取りが見えてくる。

 実際に彼は「蒔いた種がいつ芽吹くかわからないし、芽吹かないかもしれないけれど、人や社会に対しては積極的に種蒔きしたい」と話していた。

 四年の間、お互いが必要だと感じるその時々で関わり続けている亮哉くんと私は、ある意味、お互いを選択肢のひとつとして思い合えている。

 自立した、孤立させない関係性を築けているのだと思う。
 そしてこれからも、私たちはやり取りの中で、気づきを得られるのだと思う。
 物語は続く。

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