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『ぼくのモフ』絵なし絵本

少し肌寒くなってきた。
10月になるとぼくはうれしくなる。
マフラーを外につけて行けるから。

ぼくはこのマフラーを「モフ」とよんでいる。
「ママ!もう学校に‘’モフ‘’をつけて行っていい?」って感じでね。
ぼくの一番大切なもの。
だって、この‘’モフ‘’は世界にひとつだけだから。

ぼくが4歳のとき、子犬が家にやってきた。
ぼくは、もふもふした子犬に「モフ」という名前をつけてあげた。
ぼくには兄弟がいないから、ママに弟がほしいって毎日言ってたんだ。
そしたら弟が犬になっちゃったっていうわけ。

でもモフは、すごくわがままでやんちゃだった。
ぼくはいつも「こんな悪い子、見たことない!」って思ったし、
「だめ!モフ!」って怒ってばかりいた。
モフはママがソファーで寝てるとき、ママのおなかの上でジャンプしたり、ぼくのくつ下を「ヴゥッ~」ってうなってとっていく。

モフはドックフードをあげてもほとんど食べなくて、ぼくが食べてると落ちてこないかとウロウロしたり、捨てられた子犬のように悲しそうな目で欲しがるから、ぼくが小さくなるまでかんで、手であげるようになった。
ぼくがかんだご飯しか食べないから、ぼくはいつも半分しか食べられない。

ぼくが友達と遊びにいくときも、おばあちゃんちに泊まりに行くときも、すごくさびしそうに泣くから、家においていけない。
ぼくが勉強しているときもプリントのはじっこをガジガジするし、何度も引っかかれたり、かまれたりもした。
でもモフは、ぼくが遊んであげないとだれも遊んでくれないから、本気ではかなまいし、引っかいちゃったあと、「ごめんね」って何度も何度もなめてくる。

ぼくが小学校3年生のとき、モフは5歳だった。
モフは、少しだけ大人になって、あんまりやんちゃじゃなくなった。
昼間はほとんど寝ているし、たまにすごく変な咳をした。
モフは心臓が弱いらしい。
生まれつき心臓のかべに穴があいていて、右と左の血が混ざっちゃうんだって。

ある日、ぼくが学校から帰ってきたら、ママが動かないモフを抱っこしていた。
なんとなく、わかってたんだ。
いままで、何回もいっしょに病院に行ったし、チーズにまぜてお薬も飲ませてきた。
今朝もぼくのベットからおりなくて。。

わかってたけど、ぼくはすごく悲しくて、寂しくて、苦しくなった。
モフのわがままをしているところを思い出して、何日も泣いた。
早く戻ってきて、たくさん悪いことをしてほしいって思った。
足音も聞こえるし、カリカリドアを開けた気がしたり。
ぼくは、しゃべらなくなった。
だって、ほとんどモフと話してたから。

「モフは、ぼくより若いのに…5年しか生きられなくてかわいそう」ってママに言った。
でもママは、「モフは幸せだったと思うよ」って言うんだ。
「モフはいっぱいわがままを言って、好きなものを食べて、たくさん遊んでもらって、さみしくなかったでしょ?」
「犬は15歳ぐらいまで生きられる子もいるけど、その間に寂しいことや痛い思いもする時が、やっぱりあると思うの。
でも、モフはきっと楽しい思い出ばかりだから。」

どのくらい生きたかも大事だけど、どのくらい自分らしくありのままで愛されたかも大事という話をした。
ぼくはそうかもしれないと思った。
ぼくが今、すごくさみしい分、モフのことを大好きだったし、5年分のぼくを一番知っているのもモフだし、モフを一番知っているのも、ぼくだ。

1年ぐらいしてママが「やっとできた!」っておおよろこびで、ぼくにマフラーを渡した。
首にかけた瞬間、涙が止まらなかった。
モフと同じ色、モフと同じあたたかさ。
ぼくはすぐに、それがモフの毛だってわかった。
ママが「モフをブラッシングしたとき集めた毛で編んだのよ」って言った。

5年じゃない。これから先もずっとモフはぼくを見ててくれる。
ぼくが忘れるわけないじゃないか。

ありがとう。モフ…

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