『小人の大工』 絵のない絵本

森の中、小人が一人。
体が小さいせいで、街に下りても、仕事はないし、友達もいない。
だから、いつものように焚き火に使えそうな枝を探してぶらぶらしていました。

突然、足元から「なんてこと！ひどいじゃないか！」と
怒鳴り声が聞こえました。
足を上げて見るとバッタが言った。
「昨日引っ越してきたばかりなのに、家がめちゃくちゃだ。」
「ごめん。君にけがはなかったかい？」と小人がたずねた。
「ぼくは大丈夫だけど、せっかくの家が…」バッタはもう泣きそうな顔。
小人はお詫びに新しい家を作る約束をして、早速作業をはじめました。

池のそばの踏まれないような木の根元。
葦の葉のフェンスにジャノヒゲの葉で編んだ屋根、
包み込むような朴の木の葉のベッド。
元の家よりずっと素敵なお家があっという間に出来上がりました。

バッタは大喜び。
「素敵なお家をありがとう。前の家より気に入ったよ。
君に会えて、君に踏まれてよかったよ。」
小人はまん丸の目でびっくりしています。
だって「君に会えてよかった」なんて言われたことがなかったから。

バッタはさらに続けて言いました。
「君は家を作る才能があるんだね。
それにきっと僕の事をいっぱい考えて作ってくれたんだね。」
小人は嬉しくて涙が出てきました。

小人は街ではいつも邪魔者扱い。
仕事には時間がかかるし、重い物も運べないから「邪魔、邪魔」
と言われたことしかありません。
自信なんて、ずっと小さい頃にどこかになくしてしまっていました。

小人はバッタにお礼を言いました。
「こちらこそ、ありがとう。
僕は誰かの役に立ったことがないから、
君に喜んでもらえてとっても嬉しいよ。」

次の日、バッタは友達のリスを新しいお家に招待しました。
リスが「とっても素敵なお家ね」と感心しているので、
バッタは昨日の小人の話をしました。

話を聞いたリスは、自分の家も作って欲しいと小人を探しました。
バッタの案内で小人を紹介してもらうと、早速お願いをしてみました。
「わたしにも家を作ってくれないかしら。」
小人は「喜んで作るよ」と嫌な顔ひとつせず、家作りを引き受けてくれました。

太い木の真ん中に３部屋。
木の実をいっぱい貯められる貯蔵庫に
枯れ葉を揉んで敷き詰めたふわふわの寝室と
サルノコシカケでできたテーブルのあるダイニング。

「これを見て喜ばないリスはいないわ。毎日お友達とお食事ができるし、
これから楽しくなりそう。」とリスは大喜び。

小人も嬉しくなり、だんだんと自信を取り戻してきました。
また次の日、今度はウサギが訪ねてきました。
「リスさんのお家みたいな素敵な家を作って欲しいの。」

小人はお家を作るのが楽しくなっていました。
土に穴を掘ってふわふわの藁を敷いた寝室と大きな人参畑、
里芋の葉のパラソルのついたウッドデッキ。

依頼人の生活や好みに合わせて家を作る小人の噂は瞬く間に広まって、
小人は森中に家を建て、森中のみんなの友達になりました。

噂を聞いてやってきたのは、森の村長のゾウです。
小人はゾウの家作りに取りかかりました。
さすがに2ヶ月かかりましたが、とっても素敵な家が出来上がりました。

水浴びができる大きな池の縁に藁葺きの屋根の涼しい寝室、
森のみんなが集まれる集会所にはバナナの木を5本、リンゴの木やブドウ棚、ヤシの木、パンノキまで植えて、木と土壁で作られた大きな貯蔵庫には、災害時のみんなの食料が入っています。

ゾウの家作りが終わった頃、集会所に森中の友達が集まってきました。
小人の歓迎会です。
みんなからお礼を言われ、ウサギの作った美味しいキャロットケーキでお祝いし、こんなに嬉しい日はありません。

ゾウの村長は「お礼は他にもあるんだよ」と言って小人に目隠しをして、
みんなでどこか連れて行きます。
「さあ、目をあけて」と言われ、小人が見上げると、小さい丘の上に土のレンガの大きな家がありました。
中に入ると、木をくりぬいたベッド、囲炉裏のある台所、大きな作業台のある仕事部屋、拾ったドラムを使ったお風呂もあります。

「すごいお家ですね。僕もこんな素敵な家を作ってみたい。誰のお家ですか？」小人が言うとみんなは大笑い。
「君の家だよ。みんなで作ったんだ。君が作ってくれた家のように上手には作れなかったけど、喜んでくれるかい？」
小人が喜ばないはずはありません。
だってみんなが小人の事をいっぱい考えて作ってくれた家だから。

小人がみんなにお礼を言うと、「君が喜んでくれて嬉しいよ。」
「君の役に立てて嬉しいよ。」「君に会えてよかった。」とみんなが口々に言いました。

小人の家の入口には、『小人の大工』と小枝で書かれた看板が掲げられ、
毎日たくさんの仕事とたくさんの友達と楽しく暮らしましたとさ。

おしまい