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産総研デザインスクール 欧州視察演習・オーストリアにおける学び 【受講生レポート】

産総研デザインスクールでは共創リーダー育成のカリキュラムの一環として、9月にオーストリア・デンマークを訪れる欧州視察演習を行なっています(2024年現在)。今回は現在本スクールを受講している7期生の三好春陽さんから、オーストリアで訪問した「アルスエレクロトニカ・フェスティバル」について印象に残った作品と、スクールで実施したワークショップのようすをお伝えいただきます。

産総研デザインスクール7期生のはるひです。
私たち産総研デザインスクール7期生は、9月にオーストリアとデインマークで欧州視察演習を行いました。この記事では、オーストリア リンツで開催されたArs Electronica Festival(アルス・エレクトロニカ・フェスティバル)への参加を中心にお話していきます。

目次
Ars Electronica Festival視察を行う理由
Ars Electronica Festivalとは
私たちが見たもの、印象に残っている作品
未来シナリオワークショップ
振り返りと学び

Ars Electronica Festivalの視察演習を行う理由

産総研デザインスクールでは、解決すべき課題を設定するための探索方法として未来洞察を学びます。欧州視察およびArs Electronica Festival視察演習もそのうちの一つ。特にArs Electronica Festival視察演習での目的は、「アーティストの未来観察と表現方法について知り、未来探索の手法としてアートを学ぶこと」です。
 
本視察演習ではただ見学するだけではなく、視察を通して見たもの、感じたことを材料にした未来シナリオワークショップも行いました。

Ars Electronica Festivalとは

まず、Ars Electronicaとは何かについてお話しします。
Ars Electronicaは、オーストリアのリンツ市に拠点を置くクリエイティブ機関です。アート、テクノロジー、社会をつなぐ出会いの場を創造し、「先端テクノロジーがもたらす新しい創造性と社会の未来像」を提案することを目的として活動しています。

このArs Electronicaが主催する芸術祭が、我々が視察したArs Electronica Festivalです。毎年オーストリアのリンツ市で開催されており、世界的なメディア・アートの祭典となっています。

2024年のテーマは、"HOPE who will turn the tide"。
希望を鼓舞し、無関心を消し去り、潮流を変える。このテーマのもとで芸術とテクノロジーの賞であるPrix Ars Electronicaの受賞作をはじめとした様々なアート作品の展示、コンサート、パフォーマンス、カンファレンスなどが行われました。今年は67カ国からアーティスト、科学者、開発者、起業家、活動家が参加、来場者数は過去最高の112,000人に上ったとのこと。

作品の展示やカンファレンスは、リンツ市内の複数の施設で行われます。

HOPEと希望を鼓舞する展示ではなく、ディストピアな世界観の展示が行われていた施設を示す看板。"HOPE"が消されて"NOPE"になっています。

Ars Electronica Festivalで見たもの

私たちは事前に公式HPをチェックし、気になる作品を予習していました。
しかし、実際に見て感じるのとはやはり別物。私たちがArs Electronica Festivalで見てきて印象に残ったものの一部を紹介します。

Time’s Up. "Just asking for a friend" 

最初に紹介するのは、メイン会場であるPostcityの地下に入ってすぐ私たちを出迎える作品です。
'How dare you maintain hopeful visions in times like these? (よくこんな時代に希望を持ち続けられるね)'
どうして希望を持ち続けられるのか。希望とは、何なのか。夢なのか、道具なのか、実践なのか、戦略なのか。HOPEを題した展示群に踏み込む前に、一度立ち止まってHOPEを持って未来を志向することの意味を考えさせられました


Beatie Wolfe. ”Smoke and Mirrors"

石油会社の広告がどのような言葉を使って、消費者の環境や気候への認識を歪め、正しい認識を阻害してきたのかを映像で示す作品。今年のPrix Ars ElectronicaのGolden Nicaに輝いた作品です。私たちが普段何気なく見ている広告が、地球環境に対する無関心を作り出してきたのかもしれないと考えさせられる、強い社会的メッセージが込められた作品でした。


So Kanno, Akihiro Kato and Takemi Watanuki. "Kazokutchi"

NFTに紐付いた遺伝子データを持つ人工生命とそれら生命の宿となる群ロボットの作品。産総研デザインスクールの欧州視察演習では、作者の菅野創さん、加藤明洋さん、綿貫岳海さんの3名をお招きしてアーティストトークをしていただきました。群れと個、その二重性…。パッと見ただけでは私には理解できなかった深い意図をお聞きすることができました。またこの作品が今の形になるまでの経緯もお聞きし、試行錯誤の中で作品が作られていることを知りました。


Sam Lavigne and Tega Brain. "Cold Call: Time Theft as Avoided Emissions"

何を示す数字だと思いますか?
この作品は、コールセンターを模したインスタレーションです。観客は作品の参加者となり、石油燃料の幹部に電話をかけ、無意味な雑談で彼らの時間をできるだけ長く奪います。つまり、写真に写っている数字は観客が石油燃料産業の幹部に仕事をさせなかった時間です。

この作品は、生産性がCO2排出量と密接に結びついているのであれば、その生産性をサボタージュによって下げればいいという発想に基づいており、新たなカーボンオフセットを呼びかける作品になっています。


このほかにも本当に沢山のアート作品が展示されていました。近くに作者の方がいらっしゃることもあり、説明してもらえたり、疑問や感想を伝えることができた作品もありました。私は作品展示を中心に見てきましたが、カンファレンスやコンサートを見てきたメンバーもいます。
 
全体としては、やはり環境問題やAIを取り扱った作品が非常に多かったです。アートと言われて思い浮かぶイメージより、社会的メッセージが前面に押し出された作品が多いように感じました。

未来シナリオワークショップ

研修の目的「アーティストの未来観察と表現方法について知り、未来探索の手法としてアートを学ぶ」を達成するための最終フェーズとして、リンツ滞在最終日には未来シナリオワークショップを行いました。

ワークショプは、3〜4人チームに分かれ、以下のような手順で未来シナリオを作りました。

1. Ars Electronica Festivalで印象に残ったものを各メンバーが共有
2. 共有された内容に対してお互いにコメント
3. コメントから重要なポイントを2つ選ぶ
4. 選んだポイントを基に未来を考える軸を設定
5. 2軸4象限のマップを作成
6. 各象限について起こり得そうなアイデアを出す
7. 未来シナリオとしてまとめる 

Ars Electronica Festivalで印象に残ったもの→コメント→未来を考えるための軸を設定の順番なので、「アーティストの方々の未来探索を手掛かりに自分たちも未来探索してみよう…!」という狙いなのだと思います。しかし、私たちのグループはコメントの時点で抽象度が上がりすぎてしまい、起こり得そうなアイデアを発想するのが非常に難しかったです…。

振り返りと学び

記事冒頭でも述べたように、Ars Electronica Festival視察演習の目的は「アーティストの未来観察と表現方法について知り、未来探索の手法としてアートを学ぶこと」でした。

①アーティストの未来観察と表現方法について知る

Ars Electronica Festivalの作品を見たり、アーティストトークを聞いたり、作者の人とお話しする中で未来観察と表現方法についての知見を深めることができました。作品のサイズや質感、音、環境や観客とのインタラクションなど、現地に行って作品に触れたからこそ得られた表現方法への理解は非常に多くありました。

②未来探索の手法としてアートを学ぶ

未来シナリオワークショップを振り返ると、未来探索の手法としてのアートを学ぶための手掛かりを得ることができました。その手掛かりとは、未来探索の際には未来への解像度の高さが重要であり、そのためには「言語化」が不可欠だということです。

作品というカタチに落とし込むためにも、日々感じていることや考えていること、興味関心を丁寧に言語化しコンセプトを作る材料にしておくことが、未来探索の第一歩なのだと思いました。

言語化されたコンセプトを、カタチに落とし込む。しかし、現実に現れたカタチは言語化できないニュアンスを含んでいる。そこから作者自身が新たな発見をすることもあるし、観衆が勝手に新たな発見をすることもある。

作品を介して、言語化された世界と非言語の世界を行ったり来たりすること、他者とのインタラクションすること。それらを通して未来について考えていくこと。そういう行為全体が未来探索の手法としてのアートなのではないでしょうか。

私はオーストリアリンツ市でのArs Electronica Festival視察演習を通して以上のように考えを深めることができました。

 産総研デザインスクール7期はまだまだ続きます。
Ars Electronica Festival視察演習で得た学びをこれからのプロジェクトはもちろん、日々の仕事にも活かしていけるよう精進して参ります!

執筆:三好春陽

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