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注文の多いアプリ【ショートショート小説】

N氏はごく普通のサラリーマンだった。毎朝、決まった時間に起き、満員電車に揺られて会社に行き、デスクワークをこなし、夜には疲れ切って帰宅する。単調な日々に少し飽きが来ていた。

ある日、同僚のがN氏に話しかけてきた。「最近、面白いアプリを見つけたんだ。毎日ちょっとしたアドバイスをくれるんだよ。それが意外と的確で役に立つんだ。」

興味をそそられたN氏は、同僚の勧めでそのアプリをダウンロードすることにした。インターフェースはシンプルで、初めて開いたときに「今日のアドバイス」が表示された。
「今日はいつもと違う道を歩いてみてください。」
N氏は指示に従ってみることにした。いつもは通らない裏道を歩くと、そこには新しいカフェがあった。気分転換に立ち寄ってみると、美味しいコーヒーと静かな雰囲気に癒された。

翌日、アプリは「赤いシャツを着てください」と指示した。特に理由もなく、N氏はその通りにした。すると、その赤いシャツを見た後輩が「それ、私も持っているんだ!」と話しかけてきた。社内で一番可愛いと言われる後輩から話しかけられ、これをきっかけに、親しくなることができた。

N氏はアプリを信じはじめ、ますます活用するようになった。
日が経つにつれて、アプリのアドバイスはますます的確になっていった。「会議で発言してみてください」「今日は早めに帰って休養を取ってください」など、時々煩いなと思うくらい注文が多いアプリではあったが、どれもN氏の日常にプラスの影響を与えるものばかりだった。

やがて、N氏はアプリのアドバイスに従うことで、仕事のパフォーマンスが向上していった。同僚たちもN氏の変化に気づき、彼に助言を求めるようになった。N氏は次第に信頼を得て、上司からも評価されるようになった。そして、ついに出世の話が持ち上がった。

ある日、N氏は上司に呼ばれ、役員室に案内された。緊張しながらドアを開けると、そこには最新鋭のパソコンがずらりと並んでいた。上司が微笑みながら話しかけてきた。
「N君、君がここまで来れたのは、あのアプリのおかげだろう?実はあれ、我が社が開発したものなんだよ。全社員にアドバイスを提供するために設計されたんだ。」
驚いたN氏は、目の前のパソコン群に目を向けた。上司は続けて説明した。「この管理者パソコンが、全社員のアプリを制御しているんだ。上司から直接指示を出すよりも、アプリからのアドバイスの方がみんなよく従うんだよ。これが我が社の秘密兵器さ。」

N氏は理解した。彼の出世も、日々のアドバイスも、全てがこのシステムのおかげだったのだ。少し複雑な気持ちを抱えながらも、N氏はアプリを発信する側として、新たな役割に挑むことを決意した。

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