見出し画像

ワイン商人と怪しい男【ショートショート小説】

N氏は都心の片隅で、しがないワインショップを経営していた。店は古びていて、外観からは大きな期待はできなさそうだったが、彼はこの店を愛していた。棚には様々なワインが並び、どれも彼自身が厳選したものであった。

ある日、店のドアが鳴り、一人の男が現れた。背が高く、スーツ姿の男は冷静な眼差しを持っていた。「こんにちは、N氏」と男は穏やかな声で話しかけてきた。「あなたの店の評判を聞いて来ました。特にワインの品質に詳しいと聞いています」
N氏は驚きながらも礼儀正しく応対した。「そうですか。どのようなワインをお探しでしょうか?」
「実は、とある高級ワインを探してまして仕入れて欲しいのです。細かい注文ですが、品質にはこだわりたい。お任せしてもよろしいですか?」と男は続けた。
N氏はその申し出に少し戸惑ったが、このチャンスを逃すまいと心に決めた。「もちろんです。どのようなワインをお探しですか?」
男は詳細な注文を伝え、N氏はそれをノートに書き留めた。男の要求は高価なもので、N氏は悩みながらも店の在庫を大幅に入れ替えることになった。しかし、これは店の名声を高める絶好の機会でもあった。

数週間後、男は再び店を訪れ、仕入れた高級ワインを全て購入した。これが何度も繰り返されるうちに、N氏の店は高級ワインの専門店として評判が高まった。しかし、N氏は次第に男のことが気になり始めた。なぜこれほど多くの高級ワインを購入するのか、その理由を知りたくなったのだ。

そこで、N氏は探偵を雇い、男のことを調べることにした。探偵は迅速に調査を開始し、数日後には結果を報告してきた。「N氏、例の男についてわかりました。彼は不正で得た現金をワインに変え、それをストックしているようです。所謂これはマネーロンダリングです」

N氏はその報告を聞いた時驚いたが、ほっとした。男が高級ワインを購入する理由が犯罪に関わるものだと知り、不安が解消されたからだ。探偵の報告によれば、男は不正に得た現金を安全な資産に変えるために、高級ワインを購入していた。そして、そのワインが偽造されていることには気付いていなかった。

「どうせ、味も分からないだろうとボトルだけ偽造して売ったワインがまさかそんなことに使われているとは…」
しかしこれなら、男が警察に駆け込むこともなく、店の評判も守られる。こうして、N氏は男との取引を続けることにした。表向きは誠実な商人としての顔を保ちながら、裏では偽造ワインを取り扱うことを続けた。男はその後も高級ワインを買い続け、不正な現金を偽造ワインに変え続けたのであった。

この記事が参加している募集

#AIとやってみた

27,502件

あなたの1分を豊かにできるようこれからも頑張ります!