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隣人の音【ショートショート小説】

N氏は、都内のとあるマンションに引っ越してきた。そこは、最近のニュースでも話題になった、ある有名なマンションだった。しかし、驚くべきことに家賃は非常にお手軽だった。理由を尋ねると、前の住民が家賃滞納で退去したからだという。幸運のチャンスを手にしたN氏は一人暮らしで、この新しい生活を楽しんでいた。静かで便利な場所、トラブルもなく、半年間近く特に不自由もなく良い生活を送っていた。

ところが、つい最近、N氏は気になることができた。それは隣人だった。最初は夜中に聞こえる工事のような騒音だった。1週間ほど続き、ようやく収まったかと思ったら、次は毎晩のようにパーティーの声が聞こえてきた。まるで隣の部屋がクラブにでもなったかのようだ。N氏は温厚な性格で、多少の騒音には目をつぶる方だったため、怒ったりはしなかった。

それでも、不思議な隣人の行動は続いた。ある日、昼間には全くの無音であるにもかかわらず、夜になると突然激しい音楽が流れたり、時には悲鳴のような声が聞こえたりした。他の日には、物が転がるような音が続くこともあった。N氏は気になりつつあるもストレスにはならない程度に日々を過ごしていた。

ある日、N氏がマンションのエレベーターに乗ると、同じ階に住むもう一人の隣人に出会った。彼は普通のサラリーマン風の男性で、N氏に微笑みかけてきた。

「最近、夜中に隣人がうるさくないですか?」その男性は話しかけてきた。
「ええ、そうですね。不思議なことに、隣の部屋からいろいろな音が聞こえてきます」とN氏は答えた。
「私も同じです。工事のような音や、パーティーの騒ぎ声が頻繁に聞こえます。でも、昼間はまったく静かなんですよね」
二人は顔を見合わせ、不思議そうに首をかしげた。
サラリーマンは躊躇うような素振りをみせつつも小声で続ける
「実は、昨日の夜中に『なんで怒らないんだ!…』という声が聞こえたんです。私たちを怒らせようとして行っているのかもしれません。怖くて部屋を訪ねる勇気が出なかったんですが…」とサラリーマンは打ち明けた。
「それは奇妙ですね。私も何度か同じような声を聞いたことがあります。もしかすると、何かただならない苦労やストレスがあるのかもしれませんね」
二人はエレベーターを降りて、それぞれの部屋に戻った。お互い温厚な性格で管理人に連絡するほどの気にはならなかった。しかし、N氏はその会話が頭から離れなかった。隣人の部屋で何が起こっているのか、ますます気になり始めた。

ある晩、N氏はいつものようにベッドに入った。しかし、その夜はいつもとは違った。「助けて…」という微かな声が聞こえてきたのだ。最初は夢だと思ったが、その声ははっきりとしてきた。さすがに無視できなくなったN氏は、隣人の部屋を訪問することにした。
N氏は勇気を振り絞り、隣人の部屋のドアをノックした。すると、驚くことにドアは開いていた。もしかしたら倒れているかもしれない、、、
部屋の中に入ると、そこには誰もいなかった。部屋は異様に静かで、まるで人が住んでいないかのようだ。しかし、一つの張り紙が目に入った。「隣人ゲーム」とだけ書かれている。
N氏は眉をひそめ、張り紙を手に取って読んだ。どうやら、この部屋は特定の条件を満たさないとドアが開かない仕組みになっているらしい。端的に言うと、ドアを開けてもらわないと外に出られないということだ。N氏が張り紙を読み終えた瞬間、ガチャッとドアのロックがかかる音がした。

N氏は驚きと共に部屋を見渡した。目に入ったのは、大型のオーディオセットだった。その瞬間、N氏はこれまでの騒音の正体を理解した。工事のような音、パーティーの喧騒、悲鳴のような声――

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