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暇な惑星【ショートショート小説】

遠い宇宙にあるX星に住むN氏の朝はいつも慌ただしい。N氏は目覚まし時計の音で起き、薄暗い部屋の中で身支度を整えた。窓の外を見ると、昨日捨てたごみ袋が中に浮いており、今日も重力制御装置の問題で異常な重力が発生しているのが分かる。テレビをつけると、案の定朝のニュースが流れてきた。
「本日早朝、北部の重力制御装置が再び故障しました。修理には数日かかる見込みです。住民の皆さんは注意して行動してください」
N氏はため息をつきながら、コーヒーを一口飲んだ。重力制御装置の故障はもう日常茶飯事だったが、それでも厄介なことに変わりはなかった。

出社すると、同僚がすでにデスクに座っていた。M氏は地下水の調査を担当しており、その顔には深い疲れがにじんでいた。
「また地下水が枯れたんだよ。昨日の探査では新しい水脈を見つけられなかった」と、同僚は肩をすくめた。
「それは大変だな。水がないと生きていけないし、農作物も育たない」とN氏は同情を示した。
「そうなんだよ。新しい水源を見つけるまでは、節水を呼びかけるしかないな」と同僚は言った。

その日の午後、N氏は取引先の別の星から来た商人と会う約束があった。取引先の男性は、常にブリザードが吹き荒れる惑星に住んでおり、その環境はさらに過酷だった。
「こちらも大変だけど、君たちの星もなかなか厳しいね」とN氏が言うと、取引先は苦笑した。
「そうさ。ブリザードが止むことはないし、太陽を見ることもできない。でも、それが私たちの普通だからね」と肩をすくめた。「それにしても、君たちの重力制御装置の問題も厄介そうだな」
「そうだな。修理に時間がかかるから、しばらくは重力の問題と格闘しなければならない」とN氏は答えた。

仕事を終えて家に帰ると、N氏は愕然とした。屋根に大きな穴が開いている。また隕石が落ちてきたのだ。
「またかよ…」とN氏は頭を抱えた。隕石による被害は頻繁に起こるため、住民たちは常に修理を繰り返さなければならなかった。エネルギーシールドという隕石防止の特製装置が最近開発されたが、とてもじゃないが安月給のN氏には手の届かないものだった。
幸い、隕石保険には入っているため、3Dプリンターでつくった屋根が明日には届くだろう。しかし、そうとはいえ、今日はまた屋根無しの寝床である。

その夜、N氏は集会に参加し、今日の出来事を仲間たちと共有した。重力制御装置の故障、地下水の問題、そして屋根の修理。悩みは尽きなかったが、それが彼らの生活の一部だった。
「そういえば、最近また地球から人が来てるらしいよ」と仲間が話題を変えた。この言葉に住民たちはざわつき始めた。
「地球の人間って、あんなに綺麗な星に住んでるのに、なんでわざわざこんなところに来るんだろうね?」と首をかしげた。
「地球のことを聞くと、なんだか信じられないよね。悩みなんて一つも無いっていうし、食料も豊富だし、気候も安定してるんだってさ」と続ける。その話に住民たちはため息をつきながらうなずいた。彼らにとって、地球はまさに楽園のような場所だった。

「きっと、地球の人たちは退屈なんだよ」とやけくそながらにN氏が結論を出した。「だって、悩みが一切無いなんて、逆に生きる意味がわからなくなっちゃうじゃないか」。その言葉に住民たちは納得した様子で、またそれぞれの悩みと対策について語り始めた。

そんな風に、X星の夜は静かに更けていった。住民たちの悩みは尽きることがなかったが、それが彼らの生きる証でもあった。

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