見出し画像

犯罪率0%の星【ショートショート小説】

宇宙の果てに位置するその星は、犯罪率0%を誇る奇跡の星として知られていた。地球から選ばれしエリート達は、その秘密を解明するために宇宙船に乗り込んだ。入国には多くの食料や地球の名産物が必要であり、その準備には苦労を要したが、未知の知識を手に入れるためには致し方なかった。

宇宙船は無事にその星に到着し、地球人の一行は慎重に降り立った。広々とした街並みはどこか夢のようで、初めて見る風景に皆が目を奪われた。迎えに来た案内人は、笑顔で地球人たちを歓迎した。案内人のN氏は、上品な身なりをしており、その落ち着いた声には不思議な信頼感があった。

「ようこそ、犯罪率0%の星へ。ここでは、誰もが何をしても無料になっています。さあ、街を案内しましょう。」

驚愕の言葉と共に迎えられた地球人たちは、疑い深くもついていくほかが無かった。
しかし、そんな疑いも杞憂であり、N氏の案内で街を歩く地球人たちは、その言葉に驚きを隠せなかった。豪華なレストランでの食事も、贅沢なスパでの癒しも、すべてが無料だったのだ。どこに行っても笑顔で迎えられ、サービスを受けるたびに感動が増していった。

地球人たちはしばらく視察という名の自由行動を始めた。狭い宇宙船内で人生のほとんどをエリートとして過ごしてきた彼らにとってはあまりにも魅力的であった。

エリートの一人は、早速カジノに足を運んだ。彼はギャンブルに目がなかった。派手なネオンに彩られたカジノの中、彼は次々とチップを投じていった。勝つたびに歓声を上げ、負けても全く気にしない。すべてが無料だからだ。隣のテーブルでは、別のエリートがディーラーと対決していた。彼もまた、この星の自由に魅了されていた。

その頃、また別の男性は、風俗街に向かっていた。街灯が淡く照らす中、彼は高級クラブの扉を開けた。中では、美しいホステスたちが笑顔で迎えてくれた。彼は、地球では決して味わえないような贅沢な時間を過ごし、心の底からリラックスしていた。

一方で、エリートはスパでのんびりと過ごしていた。ホットストーンマッサージやアロマセラピー、そして豪華なバスルーム。彼女は日常のストレスから解放され、この星の魅力にどっぷりと浸っていた。

しばらくたった夜、一行は地元の酒場に足を運んだ。木製のカウンターに腰を下ろし、地元の住民たちと会話を楽しんだ。酒場の雰囲気はアットホームで、誰もがフレンドリーだった。ある程度仲良くななった後、本来の目的である調査もかねて地元の常連客に対して、一行は質問を投げかけた。

「ここでの生活は本当に素晴らしいですね。何もかもが無料なんて、信じられません。」

常連客の一人は笑いながら答えた。「そうだろう?俺たちはここでの生活を本当に楽しんでいるよ。トイレ掃除や重労働な仕事等、嫌なことは全部機械に任せて、好きなことだけやっているからな。」

「犯罪がないなんて、どうやって実現したんですか?」とエリートの一人が尋ねた。

常連客はビールジョッキを傾けながら言った。「簡単さ。ここでは嫌なことをする必要がないから、誰も犯罪を犯そうなんて思わないんだよ。掃除や料理、面倒な仕事は全部機械がやってくれる。それに、何をしてもOKなんだから、わざわざ犯罪を犯す理由なんてないだろう?」

しかし、それで生活が成り立つのだろうか?地球人のエリート達は顔を見合わせながら悩んでいたが、常連客は更に続ける。
「今、生活はどうしているか悩んでいるな?ここに来る奴らはみんなそれを考えるが、その答えは君たちだよ」

したり顔で笑う常連客に対して、さらに話を聞いていくと、この星の驚異的なシステムの裏には、世界中からの関税が重要な役割を果たしていることが分かった。各地から集まる食料や機械技術がこの星の豊かな生活を支えているのだ。地球人達はあっけにとられ、夜を終えるのだった。

地球に変える予定日の最後、案内人のN氏と最後の挨拶をすることになった。名残惜しいがこの星の秘密が分かった以上帰ることが重要である。

そんな地球人一行に対して、「最後に一つ提案があります。」N氏は少し声を低くして言った。「もしあなたたちがこの宇宙船を寄付してくだされば、永住権を差し上げます。」

地球のエリート達は顔を見合わせたが、誰一人声を発さなかった。永住権の魅力は大きかったが、元々エリートである彼ら、容易くミッションを投げる気にはならなかった。彼らはしばし黙考した。

N氏は続けて言った。「次の地球からの宇宙船を待てばいいのです。そうしたら我々も幸せだし、皆さんも帰りたくなったら帰ればいい。」
笑顔のN氏に対して、地球人達はなすすべもなかった。

…こうして犯罪率0%の星の秘密は守られていき、今日も多くの食料や名産品が星に届くのであった。

この記事が参加している募集

#AIとやってみた

28,552件

あなたの1分を豊かにできるようこれからも頑張ります!