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美しいうつしみ

ベビィピンクの額が剥き出しで涙が出た。ここ最近は辛くても苦しくてもカラッカラだった目の奥を染み渡って、チョコミントが煌めく。ハーゲンダッツの量に納得出来たのはつい最近です、濃密な幸せは微量でいい。夢はひそかにしかし執拗に私に付き纏い続けるのに、春の畦道のようにぱらぱらと足蹴にされる。大好きだった本も映画も今の私には問いかけてくれなくて、最近は宗教書を読んでる。自分に対して問いかけてくるものにはいつも飢えている。ソファと床の隙間に横たわりひとつひとつ煩悩を数えたら余裕で108個を超えた、また自分が嫌になって伸びた爪を剥ぎ取った。遺体になる前に君に会いたいから、今日の一限はサボりました。

美しい景色よりも私ばっかり見てて欲しい、と乙女たちは零した。なんてささやかでいじらしい祈り、私ならきっと、もっと景色を見てよと願う、その景色の先に私を写してよと願うだろう、駄々を捏ね、みすぼらしく縋り、無理に相手の視界に自分を転送する、心から望んで浮かべた私しか、美しく映らないことは既に理解っているのにも関わらず、ですよ。何が言いたいかというと、あなたが心揺れたひかりを私に共有してくれたこと、もうここで死んだっていいよと思うほど情けなく感激したってこと。

独白調の小説しか読めないのはねちねちと纏わりつく俯瞰癖から脱する唯一の手立てだから。いつも浮遊している感覚が抜けなくて、お気に入りのAIR MAXは多分3cmほど地面と離れている。何を見ても、何を聴いても、何に触れても、あの頃の噎せ返る程の激情は無い。焼死。いっそ私を辺境のスケートリンクに埋めて氷漬けにしてでも地べたに縛り付けて欲しい。睫毛が凍りつき、肺が凍りつき、やがて微かに震え揉みしだかれた心臓に霜が降りたなら、私はようやく葬られた私に中指を手向けることが出来る。

赤く錆び付いた手のひらで君は面皰ひとつない顔を覆った。まるで自分の1番恥ずべき部分を包み隠すように。ささくれだった両手は水滴を弾き肘を伝って手入れされていない足の指に落ちた。私は戦場で人を殺した少女兵を想っている。村を焼かれ、尊厳を焼かれ、共に戦った少女を焼いた彼女は、私を軽蔑するだろうか。多分、どちらでもいい、私の同志だ。私は灯りの消えた6畳半から、或いは喧騒の教室から、またある時は公衆便所の個室から、この世の何よりも狭い空間に向かい合い、君に照準を合わせている。スコープを覗くと白い息が漏れて、性交なんかより余程強烈な快感の中、Enterキーを鳴らすのだ。

私が立っている。私の身体に無理やり当て嵌めた理想、または偶像を狙い、私以外を掠めない言葉をもって引き金に手を掛けた。

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