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【読書】チエちゃんと私/吉本ばなな

うまくいかないことが続くと、焦燥感が大波で押し寄せて来て、自分をこの世界の片隅に追いやる。そんな時の休日は何もする気が起きず、ただただ家でぼーっとしていると今度は孤独さが掻き立てられる。思い出したくも無い過去を回顧する思考の循環が生まれ、次々と私の頭を不毛な邪念と、過去の後悔が支配していく。

あの時ああしていればなんて、全くもって不毛な言い訳で、非生産的な欲でしかない。そんな事は頭で理解しているんだけれど。それにチャンスなんて見えるのは一瞬。見てている間に掴んでおかないと消えてしまう儚きものなのよ。

そんな時に読んだのが「チエちゃんと私」。

恋愛はうまくいっていないものの、今の人生に大きな不満はなく、平穏な毎日を送っていた40半ばの主人公「私」。ひょんなことから7歳下の従姉妹の「チエちゃん」と同居するように。半永久的と思えた不思議な同居生活にも少しずつ変化が生まれていく。。

泣かないで、って私が好きな二人に最近言われた、と私は柔らかい気持ちになった。私はそれだけで充分だった。
不安は蜘蛛の巣のように、私の顔にまとわりつき、呼吸を浅くし、いつまでもふわふわして消えなかった。
私を思って、私に対して向けられたごほうびみたいな他人たちの感情。
それは、誰にも分けてあげられない、私だけのキャンディなのだ。

吉本ばななが描く繊細で奥深い心情描写に幾度となく痺れ、真似したくなることば遊びにワクワクしながらページをめくっていった。

気持ちが動くって至極健康的な事なのね。焦ったり、後悔したり、誰かを好きになったり、気にかけてもらって嬉しい気持ちでいっぱいになったり。主人公同様一匹狼不器用な生き方をしている私だからなおのこと、登場人物達の繊細な心の動きにシンパシーを覚えた。

心も動かさないと筋肉は落ちちゃうし、ベストな動かし方をするためには時に集中力とエネルギーが必要。だけど人と関わっていると無意識に心って動くんだよね。反対に関わっていないと動かし方に不都合が生じてくる。人って不思議な生き物。そんなことに気付かされた一冊。

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