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02冊目:黄色い封筒をめぐる冒険

ちょうどいま浜松に来ているのは、TEDxHamamatsu 2024のイベントがあるからだ。何がちょうどなのか、というと、今回紹介する本に関連するからだ。

かれこれ10年近く前、このイベントの初年に登壇させていただき、「黄色い封筒をめぐる冒険」というタイトルでトークをさせていただいた。内容は、僕が自主制作していた小冊子「インド料理をめぐる冒険」についてである。

日本全国でインド料理黎明期を支えるがごとく店を経営していたオーナーシェフたちを取材し、彼らの半生をつづった小冊子を作り、全国各地のインド料理店に勝手に送り付けた。そのことを話した。今さら個人的には絶対に見たくないが、当時のトークはここに残っている。

記憶が確かなら、トークでは僕の活動方針についてまとめている。

   誰もやっていないことで
   誰にも頼まれていないけれど
   誰かが望んでいるかもしれないことに
   全力を注ぐ。

表現は正確かどうかわからないが、いまでもそれは変わらない。
特に自費出版という、お金と労力が出て行くだけで何の得にもならない趣味活動のようなものをしている身分だから、この考えを曲げてしまったら続かない。

その小冊子は合計16冊作り、その後、「カレーの対話」シリーズ第2巻として書籍化した。
書籍化の際にすべての原稿を読み直し、改めて我ながら「素晴らしい出来だ!」と自画自賛することになったのは、僕の文章力のなせるものではなく、オーナーシェフたちの気の遠くなるような努力と辛抱と継続のおかげである。

【目次】
1 小森良幸/埼玉『さらじゅ』
2 高橋正晴/山形『インドカレーのやかた ナーランダ』
3 柴崎廣/千葉『カレーレストラン シバ』
4 塚本善重/東京『新・印度料理たんどーる』
5 二宮健/東京『新宿中村屋』
6 G・M・ナイル/東京『ナイルレストラン』
7 若菜弘/兵庫『デリー』
8 瀬口彰治/大分『チャイハナ海花』
9 増田泰観/千葉『印度料理シタール』
10 堀忠明/北海道「インドカレー ミルチ」
11 永田明史/静岡「coffee&curry ボンベイ庵」
12 由利三/山形「山形のインド料理とカリー JAY」
13 早川久嘉/富山「インド料理デリー あわら店」
14 池田賢一/東京「葡萄舎」
15 小松崎祐一/千葉「サールナート」
16 古賀登士郎/福岡「タージ」

残念ながら鬼籍に入られた方もいらっしゃるが、彼らの素晴らしき半生に、ちょっぴり僕自身の好奇心と執念をふりかけていい作品になっていると思う。
このシリーズを僕は「めぐる文庫」と名付け、刊行の辞を書いた。15年前のことである。

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日本人が初めてカレーに遭遇してから実に百五十年もの歳月が過ぎようとしています。
国民食として独自の進化を遂げ、世界に全く類を見ないほど食生活に浸透した日本のカレーには、もはや王道も覇道もなく正解も不正解もありません。ならば自由奔放に膨張し続けるであろうカレー文化の中で、私たちが拠り所とすべきは何なのか。それはカレーのルーツであるインド料理にほかならないのです。だからこそ、そんなインド料理に人生を注ぎこみ、日々実直に厨房に立ち続けるシェフに対して最大の敬意を表し、精一杯の声援を贈るために「めぐる文庫」の発刊を決意しました。
私たちは権威に盲従せず、俗流に媚びることなく、毅然として日本のカレー文化の根底を支え続けるシェフたちに心をこめてこの新しい文庫を届けたい。大方の支援と協力を衷心より切望してやみません。

二〇〇九年九月                      水野仁輔
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これも記憶が確かならば、どこかの大手出版社の文庫の刊行の辞の表現を踏襲してパロディしたような。

今年の初めに本書を購入していただいた方から、(制作者としては非常に的を射たと感じる)レビューをいただいた。

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深いです。学ぶものがたくさんありすぎて消化不良かもしれません。
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僕が読者として本書を読んでもそう思うだろう。取材して書いた僕自身、いまだに昇華しきれていない。とにかく「もっと自分も頑張らなくては」と勇気がもらえることだけは間違いない。

ところが、この本、驚くほど売れていない!

結果、素晴らしい内容なのになぁ、なかなか届かないなぁ、いつもこうなるんだよなぁ、と負け犬の遠吠えをここに書く羽目になっている。



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