労働基準法の概要

・昭和22年制定

・労働条件の最低の基準を設けることによって、労働者を保護する法律

・労働条件を、労使が対等の立場で決定することも労働基準法の基本理念

・労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすものでなければならない。
(憲法25条1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する←これと同様の宣言的規定)

・労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならい。(労使の合意に基づいたものでも、労働基準法の基準を理由に労働条件を引き下げることは違反行為。社会経済情勢の変動等、他に決定的な理由がある場合は問題ない。)

・労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。労働者及び使用者は、労働協約(労働組合と使用者又はその団体との間に結ばれる労働条件などに関する協定)、就業規則(労働者が就業上守るべき規律や労働条件などを使用者が定めた規則)及び労働契約(個々の労働者と使用者が結んだ、一定の労働条件の下で労働力を提供することを約する契約)を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

・使用者は、労働者の国籍、信条(特定の宗教的又は政治的信念)又は社会的身分(生来的な地位)を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件(職場における労働者の一切の待遇。賃金、労働時間、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等。しかし、採用は含まれない!)について、差別的取扱をしてはならない。(均等待遇の原則S22.9.13発基17号通達)
※国籍、信条、社会的身分は限定的に列挙、つまり、これら以外の理由たとえば職制上の地位により待遇に差異を設けることは違反ではない。差別的取扱には、有利に取扱う場合も含まれる。

・使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金(賃金体系や賃金形態も含まれる)について、男性と差別的取扱いをしてはならない。(男女同一賃金の原則)
職務、能率、技能、年齢、勤続年数等によって賃金に個人的差異が生じることは違反ではない。
賃金以外の昇進や定年年齢で女性を差別することは、男女雇用機会均等法で禁止されている。

・使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。(長期労働契約、賠償額予定契約、前借金相殺契約、強制貯蓄などもこれに含まれる。)違反すると、1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金という労働基準法上最も重い罰則が科せられる。

・何人も、法律(職業安定法及び船員職業安定法)に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益(金銭以外の財物を含む。有形・無形も問わない。)を得てはならない。(たとえ一回の行為でも、反復継続して利益を得る意思があれば違反、主業か副業かは問わない。)
※労働者派遣は、他人の就業に介入したことにはならず、合法・違法を問わず本条(労働基準法第6条)違反とならない。
他人の就業に介入して得る利益の帰属主体が法人でも、違反行為をしたのが法人の従業者であれば、従業者の違反が成立する。

・使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利(選挙件、被選挙権、最高裁判所裁判官の国民審査、地方自治法による住民の直接請求、選挙人名簿の登録の申し出等、行政事件訴訟法に規定する民衆訴訟、公職選挙法に規定する選挙等に関する訴訟)を行使し、又は公の職務(衆議院議員等の議員の職務、労働委員会の委員、検察審査員、労働審判員、裁判員、審議会の委員等、民事訴訟法の規定による証人の職務、公職選挙法の規定による投票立会人の職務等)を遂行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
※就業規則等に公民権の行使を労働時間外に実施すべき旨を定め労働者が就業時間中に選挙権の行使を請求することを拒否する時間外行使規定は、本条(労働基準法第7条)違反。

【十和田観光電鉄事件】s38.6.21
会社の承認を得ず市議会議員に立候補、当選し、従業員が会社に休職扱いにしてほしいと申し出ると、会社の承認を得ず公職に就任したときは懲戒解雇するという就業規則の規定に基づき懲戒解雇した。
公職に就任する場合に会社の承認を義務付けることはできず、会社の承認を得ないで公職に就任したことを理由に懲戒解雇をすることは許されず、無効である。公職就任により業務に著しい支障が生じず場合は普通解雇できると正当性を認めた裁判例もある。
公民権の行使に係る時間は、有給でも無休でも当事者の自由。

・労働基準法は、原則すべての事業(事業場)に適用される(適用事業)。主要な事業の種類は、法別表第1に定められる。1~5号までは工業的業種、6~15号までは非工業的業種と呼ばれる。

工業的業種
1号:製造業・・・物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む)
2号:鉱業・・・鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
3号:建設業・・・土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
4号:運輸交通業・・・道路、鉄道、軌道(車や汽車が通る道のこと)、策動(ロープウエイ)のこと、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
5号:貨物取扱業・・・ドッグ、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業

非工業的業種
6号:農林業・・・土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
7号:水産・畜産業・・・動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
8号:商業・・・物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
9号:金融広告業・・・金融、保険、媒介、周旋(仲介業のこと)、集金、案内又は広告の事業
10号:映画・演劇業・・・映画の製作又は映写、演劇その他興行(サーカスなどのこと)の事業
11号:通信業・・・郵便、信書便又は電気通信(テレビ放送など)の事業
12号:教育研究業・・・教育、研究又は調査の事業
13号:保健衛生業・・・病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生(病院などのこと)の事業
14号:接客娯楽業・・・旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場(ゴルフ場、ボーリング場などのこと)の事業
15号:清掃・と畜場業・・・焼却、清掃又はと畜場業の事業

・労働基準法は、同一場所にあるものは、原則として分割することなく一個の事業として適用される(労働の態様が著しく異なるときは、独立の事業とすることがある※工場内の診療所、食堂、新聞社の本社の印刷部門など)。場所的に分散しているものは、原則、別個の事業として適用される。(著しく小規模で独立性のない出張所などは直近上位の機構と一括して1つの事業とすることもある。※現場事務所のない建設現場、新聞社の通信部、列車食堂等における供食のサービスの提供を行う事業など)

・労働基準法は、同居の親族(同じ世帯で常時生活を共にし、居住と生計を同じくしている6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族をいう)のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。(全面的適用除外)ほか、家事使用人、一般職の国家公務員、外交官等の外交特権を有する者(国内における外国人や外国法人が経営する事業は適用。国内で就労する外国人労働者にも適用。)

・船員法の適用を受ける船員については、総則に関する規定の一部(基本原則に関する規定等※労働条件の原則規定、労働条件の決定規定、均等待遇規定、強制労働の禁止規定などは船員についても適用される)及びこれらに関する罰則規定等を除き、労働基準法は適用されない。地方公務員のうち、一般職の職員については、労働基準法の規定の一部が適用されない。

・労働基準法で労働者とは、職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。(使用従属関係にある者)
労働者に該当しない→個人事業主、法人、団体又は組合等の代表者又は執行機関たる者、下請負人(事業主である)、同居の親族(原則)
労働者に該当→法人の重役で業務執行権又は代表権を持たず、工場長、部長の職にあって賃金を受ける者、労働組合の専従職員(在籍のまま労働提供の義務を免除し、組合事務に専従することを認める場合)、新聞配達員(通例)
☆同居の親族であっても、①常時同居の親族以外の労働者を使用する事業で、一般事務又は現場作業等に従事②業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明白③就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様で、賃金もこれに応じ支払われている。この3つの要件を満たす場合は、労働者となる。

・労働基準法で使用者とは、事業主(個人企業の場合は事業主個人、法人企業の場合はその法人)又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
※使用者に該当するかどうかは、実質的に一定の権限を与えられているかどうか。

・労働者派遣とは、派遣元の使用者と労働契約を締結した労働者(派遣労働者)を派遣元の使用者の指揮命令の下で労働させる形態。労働基準法の適用は、基本的に派遣労働者と労働契約関係にある派遣元が使用者としての責任を負う。労働者派遣の実態から、派遣元の使用者に責任を問い得ない事項等については、労働者派遣法による特例が適用、派遣先に責任を負わせるものとされる。

・出向には、在籍型出向と、移籍型出向がある。在籍型出向は、労働者が出向元との労働契約関係を維持しつつ、出向先との間に労働契約を締結し一般に出向先において労務を提供する就業形態である移動型出向がある。出向元、出向先および出向労働者の3者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて、出向元の使用者又は出向先の使用者がそれぞれ出向労働者について労働基準法上の使用者としての責任を負う。
移籍型出向は、出向元と出向労働者との労働契約関係は終了し、出向先との間にのみ労働契約関係がある就業形態。出向先とのみ労働契約があるため、出向先の使用者のみが労働基準法上の使用者としての責任を負う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?