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【小説】Merry Christmas (全5話)

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【小説】Merry Christmas(5/5)

【小説】Merry Christmas(5/5)

各店舗から通常の何倍もの報告書が送られてくる12月24日夜、外の雨はみぞれ雪に変わり始めている。

「先輩、雪って大根おろしにも見えませんか?」
「忙し過ぎて、とうとう限界を迎えてしまったか」
「いえいえ、荒ぶり大根が僕の中でブームなだけで」
「まぁどちらにしてもホワイトクリスマスだよね」
「その返しの早さが忍者ばりなんですよ」

真理子は既に社内の整理を済ませ、最終日の今日、この本社での業務を終

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【小説】Merry Christmas(4/5)

【小説】Merry Christmas(4/5)

貴司は休日出勤の午後の緩い空気に任せて、普段の帰り道では避けてきた話題を、真理子に投げ掛ける。

「先輩、サンタクロースって本当にいると思いますか」
「きっと、演じてるんじゃないのかな」

予想外の答えに思わず言葉に詰まったが、真理子は手を休めずに話を続ける。

「誰かが演じてるんだと思うよ。ヒーローも脇役も、サンタクロースも」
「先輩も、誰かを演じてるんですか?」
「今は鈴谷くんの先輩役を演じて

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【小説】Merry Christmas (3/5)

【小説】Merry Christmas (3/5)

この週末も貴司は注文書の確認、真理子は社内の整理を兼ねて出社している。クリスマス商戦と引継業務を同時に進めた怒涛の日々にも、ようやくゴールが近付いている。

「今年のクリスマス、しかも土日じゃないですか」
「それがまたイベント感を煽ってるんだよね」
「忙しさにもターボが掛かってきてますよ」

約40社ほどの仕入先とおよそ70店舗の販売先、大小2万点の商品の入出荷状況など、あらゆる要望に対し最適解を

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【小説】Merry Christmas (2/5)

【小説】Merry Christmas (2/5)

貴司と真理子が勤める玩具業界もまた、流行の移り変わりは非常に激しく、リスクを抑えたい小売店は発注期限まで状況を見極めている。しかしメーカー側としても製造ラインに影響するため、クリスマス商戦の時期には各社からの注文の催促が絶えず送られてくる。

「今年はスプラトゥーン強すぎじゃないですか」
「関連グッズも勢いが衰えないからね」
「フェスの盛り上がりはもはや国民的行事ですから」

卸業者にとっては、注

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【小説】Merry Christmas (1/5)

【小説】Merry Christmas (1/5)

人波で溢れかえる12月、雑踏を華麗にすり抜けながら進む真理子の背中を、貴司は必死で追いかける。

「待って下さい先輩、早すぎですって」
「私は普通に歩いてるだけだよ」
「もう何十人抜いてるか数えきれません」

歩く速さに加え、真理子がひときわ小柄なこともあり、少しでも目を離すと見失いそうになる。会社帰りの駅までの道のりは貴司にとって仕事以上のプレッシャーだ。

「先輩、絶対に忍者に向いてますよ」

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