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第三章 前編「龍の住処」

きて___。

なんだ?なんだか声が聞こえる。きて?どこかに俺を呼んでるのか?

その後もよく分からない謎の声は、何かを必死に訴えるような声音で何度も何度も語り掛けてくる。

『い…て…き……て…!』

段々と声が大きくはっきりと聞こえてくる。

『きて…!きて…!__生きて!!』

「起きて」

「ぶぐふぉ!?」

突然、俺の腹部に強烈な激痛が走り変な悲鳴を上げながら飛び起きた。

「おごぅ…腹が…腹がぁ…」

くそっ、一体誰が…ってだいたい予想はついてるけど。

「ようやく起きた。こうなったのも起きないあなたが悪い」

俺の予想通り理不尽の権化ことソフィアが足を振り抜いた状態でそこにいた。

「何も腹を蹴り飛ばして起こすなんてことはしなくていいだろうに…」

「それはいいからついてきて」

「謝罪はねえのか、謝罪は」

俺が愚痴ってる間にもソフィアはスタスタと歩いて行ってしまう。はあとため息を吐きながらも早足にソフィアの背を追いかける。

ソフィアの後ろを歩きながら俺は辺りを見回した。

気絶する前まではどこかの洋風な部屋の中にいたはずなのに、一体何をどうしたらこんな自然豊かな森の中にいるわけ?うーん…。

俺はその時、自分のとある癖があることを忘れていた。

俺は、昔から少しでも胸に突っかかりを覚えるとそれを深く考えてしまう癖があった。それのおかげで、何度か事故りかけたことがあったから気をつけていたのだが、前に着いていく人がいるっていう状況があったゆえに少し気を抜いてしまった。

「どこまで行くの」

「え?」

ソフィアの声が聞こえた頃にはもう遅かった。

俺の右足はすでに地面にぽっかりと空いた巨大な穴に踏み込んでしまっていた。

「うわあああ!?」

俺は咄嗟に何かを掴んだ。しかし、そんな抵抗虚しく俺は穴の底へと落ちていった。

内蔵が浮き上がるかのような気持悪い感覚に吐き気を覚えながらも胸中では叫びまくっていた。

(ソフィアアアア!!なんでもっと早く言わんのじゃボケエ!!てか落ちそうならもっと焦ったように言えよ!!てか肩を掴むなりして止めてくれ!いやいやもうそんなことよりも!)

「助けてくれぇぇえええ!!」

「助けるもなにもあなたに引っ張られて私まで落ちたのだからどうしようもない」

「は?」

幻聴かと思ってそちらを振り向くとそこには俺と一緒に落下しているソフィアの姿が。

てか引っ張ったってそんな言いがかり…あ、そういえば何かを咄嗟に掴んだような覚えがあったようななかったような…?

「……」

うぐっ、ソフィアの視線が痛い…。

「いや、そんなことよりも!ソフィアならこの世界に来る時に使ってたあのすごそうな魔法で何とか出来るでしょ!」

「あれは時間が掛かる」

「長距離転移じゃなくても短距離転移とかないの!?」

「ない」

「ふざけんなあああ!!」

そうやって話している間にも俺たちはどんどんと下へ下へと落ちていく。

「ん?あれは…」

ふと下の方に視線を向けると青白い光が見えた。そして、その光に照らされる巨大な針のような形状の岩の群衆も。

「いいいいいいやあああああ!!!」

誰か!誰でもいいから助けてくれぇぇえええ!!

じたばたと無駄な抵抗をしながら胸中で救いを求める叫びを上げたその時、バサりと羽ばたく音とともにぐいっと襟首を捕まれ息が詰まる。

「うぐっ、がは、じ、じぬぅ」

『少しの辛抱だ。死ぬなよ小僧!』

「い、いや…ごれ、や、ばい…」

意識が遠のいて行く…これで俺気絶、するの、何度目、だ、よ…。

そこで俺の意識は途絶えた。

「う、ううん…はっ!?」

「起きて」

「っぶねぇ!?」

危なかったぁ…。なんか不穏な空気を感じたから飛び起きてみたらソフィアの蹴りが俺の腹に直撃する寸前だったわ。もうあんな起こされ方はゴメンだよ…。

なんかソフィアがちょっと不満そうなのは気にしないでおこう。俺を蹴るのがちょっと楽しいとかスッキリするとかそういうんじゃない。ないったらない…ん?

「っ…!?」

はあとため息を吐きながら呆れ顔でソフィアの方を見た俺はソフィアの後ろに何かがいることに気がついた。

ソフィアがいつの間にか持っているランプの明かりに照らされてその巨大な何かの姿をあぶりだす。

身体中を漆黒の鱗で覆い、背中から四対の翼と宝石のようにキラキラと光を反射する大きな鉱石を生やしたドラゴンがそこにいた。

それも一体だけじゃない。視線を感じて当たりを見回してみると、何百と数え切れないほどの三対の赤眼が暗闇の中に浮かび上がっていた。

「ひぃっ…!?」

あまりのおぞましい光景に足がすくむ。少しでも視線から逃れるように一歩、二歩と後ずさる。

不意に足にコツンと何かがぶつかった。最初は石かと思ったが、頭上からフーっと吹きかけてくる生暖かい風に嫌な予感がした。

俺はゆっくり、ゆっくりと後ろを振り向く。

そこには先程のドラゴン達と形状の似た体の色んな箇所から鉱石のようなものを生やしたドラゴンの”王”がいた。

俺は目を見開いたままパクパクと口を動かして言葉を発しようとするも、恐怖で舌が引っ付いたように動かない。

ドラゴンの王はゆっくりと首を動かし俺を見下ろして言った。

『ようこそ。我らが黒雹龍こくひょうりゅうの住処へ。異世界人、いや魔王怠惰スロウスよ』

……は?

一瞬何を言われたのかよく分からなかった。でも、異世界人って俺しか居なくね…?ってことはだよ?

俺が魔王!?

「はあああああああ!?!?!?」

俺の腹の底からの大絶叫が洞窟の中に響いた。

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*追記  序章~第二章もぜひご覧下さい!

次回も読んでもらえると嬉しいです。

読んで下さりありがとうごさいました!!

                                                         



































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