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私は貴方の名前が好きだよ。

自分の名前が嫌いだった時期がある。その時よく聴いていたラックライフの『名前を呼ぶよ』を久しぶりに聴いた。もう遠い彼を思い出していた。この感情を残そうと思ってかれこれ5時間、打っては消してを繰り返している…


偽名とお前

私が中学2年生の頃。共通のネット友達がいて、引き合わされた様なものだった。その日にLINEを交換して、時々話すようになった。LINEのトモダチ欄に表示される彼の名前。同じ中学の人たちと嫌々交換した連絡先に埋もれないよう、こっそりお気に入りに登録した。

年齢も、性別も、育ちも、学校も違う。共通の趣味すらない。私たちを結んでいた一番の共通点は「自分の名前が嫌い」だった。私は彼を偽名で呼び、彼は私をよく「お前」と呼んでいた。たまに偽名で呼んでくる時もあった。私は気を許していたので本名も教えたのだが、彼はなかなか教えてくれなかった。キラキラネームだったりするのかな?と勝手な妄想もよくしたけれど、彼が「お前さ」と私を呼ぶことが心地良かった。

私の名前の由来は、「父が好きだったアイドルの名前」らしい。幼い頃に離婚して母と暮らしてる私からしたら絶叫ものだった。
嫌いな名前で私の命の意味が、確立されていく様な感覚が当時はとても怖かった。


本当の名前

LINEで話す関係が続いて数年経った。電話をしたことも何度かあった。クラス替えと同時に付き合う人も変わる、トモダチってそういうものだと思っていた。でも彼とは変わらず仲が良かった。長く友達関係でいられたのは、後にも先にも彼だけだったと断言出来るほど、私の作る人間関係は希薄だった。

高校2年生の冬。新年最初に会った友達は彼だった。チーズケーキを食べる私に、ようやく本当の名前を教えてくれた。数秒間、頭の中でその響きを反芻しながら「別に変な名前じゃないじゃん。私は好きだよ、貴方の名前」と言った。ホットドッグを頬張りながら「俺は自分の名前は好きじゃないんだ」と軽く流された。「そうなんだ」とぼんやり返しながら、いつもの様に彼を偽名で呼んだ。

私は彼を本当の名前で呼ぶことを、最後までしなかった。


『名前を呼ぶよ』

生きている意味を確かめ合いながら進めるように 
名前を呼ぶよ あなたの名前を

今、とても後悔している。本人が嫌いというのだから、彼を偽名で呼ぶのは正しい優しさだろうと思っていたが、やっぱり呼びたかった。私が呼ぶ貴方の名前を好きになってほしかった。私も自分の名前が嫌いだったが、呼ばれる幸せを周りの人に教えて貰った。そのおかげで自分自身のことも好きになれた。

私の命の意味は、誰かに名前を呼ばれることから始まっている。名前を呼ぶという行為を疎かにしたくない。

アイドルの名前が由来だとか関係ない。私は私に生まれたのである。だから私は今そばにいてくれる人、これから出会う人の名前を愛を込めて言いたい。大袈裟だけど、そんな愛し方があっても素敵ではないか。

ねぇ、良太。もしも叶うなら貴方の名前を全力で叫ぶよ。だって貴方はその名前を持って生まれ、私に出会ったのだから。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

貴方は今、誰の名前を呼びたいですか?

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