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藍染め

この気持ちを愛と呼ばず、なんと呼ぶのか教えてほしい。ピンクの細く柔らかな髪が、綿菓子のように可愛らしく、そばに寄ると甘い香りがした。


8月

「高嶺の花子さん」を聴いていたら彼女は現れた。もう二度と会えないと思っていたのに、手を振る姿を見て「あぁ、やっぱり好きだな」と苦しくなった。

隣を歩きながら、離れていた2年分の情報交換をした。仲のいい人が減ったこと、大学を退学したこと、家にずっといること、絵を描かなくなったこと、整形したいこと。彼女はあの頃と変わらない口調で、今までに変わったことを弾むように話した。驚かされる内容ばかりだったが、趣味や思考はあまり変わってなくて懐かしかった。


11月

「誕生日おめでとう。例え法を犯しても、君の味方で居続けるよ」とDMを送った。例えが重すぎる…と自覚しつつ「いつも味方でいるって伝えてくれて本当にありがとね」と返信が来て嬉しかった。それだけで私の人生全てが救われるようだった。


4月

話すようになって何ヶ月か経った。私はバイトや勉強に充実していた。Twitterに載せられている自撮りやツイートを見ると、愛しい気持ちが込み上げてくる。私に笑いかける砂糖菓子のような笑顔を堪能した。ピンク髪からは優しい花の香りがした。彼女の欠片一つ一つが、砂糖のように脳を溶かし思考を甘くさせてくる。

私にはもう怖いことなんて何もなかった。一度失った人が、今こんなにも幸せな夢を見せてくれる。この記憶を抱いて死ねるのなら、この先で何度嫌われても構わないと微睡みの中考えていた。


9月

「見せたいものがあるの」と言われてネットカフェに行った。彼女が持ち込んだDVDは、私が見に行くのを躊躇って行かなかった卒業作品展の映像だった。待って、と心の動揺を隠せないまま場面は進んでいく。彼女は私の隣に座って、楽しそうに場面ごとに小話を教えてくれた。1時間、食い入るように画面をただ見つめていた。
エンディングが流れ、名前を忘れた見知った顔たちが、画面の中で泣きながら最後の挨拶をしていた。拍手と共に映像が終わる。

私はあの時、学校を辞めてよかったんだ。心の底からそう悟った。あの時は一緒に居られなかったが、今こうして隣にいるのは私だ。この先でまた離れ離れになっても、君が隣にいる、今だけが、全てだから。

堪らなくなって後ろから抱きしめた。「え〜どしたの?」といつもの声で聞かれたが、小さく掠れた声で「ありがとう」と言うことで精一杯だった。ピンク髪で視界が埋め尽くされた、彼女の色だ。


藍良

私に新しい名前をつけるならどうしても「藍」という漢字を使いたかった。茜染めと藍染。似てるようで違う、でも繋がりがある。そんな良好な関係になりたくて「良」という字も採用。

君には好きな人がいて、毎日のように喜怒哀楽をツイートしているね。
上手くいくように願っているよ、だって私じゃ、君の望む幸せを与えてあげられないから。
自分が男に生まれていたら、きっと同じように君を好きになるよ。
君を絶対幸せに出来るように、なんだって努力するよ。
この世界線で、たまたま私と君が女に生まれてだけであって、私は君の存在そのものを愛しているよ。

20歳、おめでとう。ありがとう、大好きだよ。


時系列的にはこちらが前編です↓


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