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アリス・ウォータースが語る「すべての子どもたちに、身体と地域を豊かにする給食を」



We need to have the courage and conviction to establish a nutritious, sustainable, free school-lunch program for all.


栄養価が高く、持続可能で、無料の学校給食プログラムを
すべての子どもたちに届ける勇気、そして信念を持ちましょう。

——Alice Waters(アリス・ウォータース)

半世紀にわたる地元での実践を通して、人と地球と食に人生を捧げてきたアリス・ウォータース。

新著『スローフード宣言〜食べることは生きること』(海士の風)では、加速する気候変動や格差問題、地球も人も健康を害している現状を変えていくために、私たちがいかにして 人間らしい価値観 を取り戻していけばいいかを提案しています。

その変化を生むために「それ以上にいい方法って、他にないでしょう?」とアリスが唱えているのが「学校給食の地産地消化」です。

無料で地産地消の学校給食を、すべての子どもたちに届けましょう。
その食材は、大地や働き手を大切にする農家や酪農家から購入しましょう。
食事を通して子どもたちに、身体に必要な栄養のこと、預かる責任、
そして、コミュニティの大切さを伝えたいのです。


なぜ、学校給食なのか。

アリスは2014年の TIME誌のインタビュー "The Fate of Our Nation Rests on School Lunches( 国の未来は学校給食にあり)" で、こんなことを話していました。

「フランスの哲学者ブリヤ=サヴァランは、かつて、"国家の命運は、その食事に左右される" と言いました。この国の学校給食について考えるとき、私は必ず、この言葉を思い出します。近頃 アメリカでは、子どもたちに良い食事を与えるという、正しく基本的なことでさえ疎かにされているのですから。
私たちは一度、立ち止まらないといけません。一歩下がって、全体を俯瞰してみれば、本物の食べものに正当な投資をしないことに伴うコストがどれだけ大きいか、わかります。今の食料システムがアメリカ生活のあらゆる分野にもたらしている影響を、正直に認めましょう。ファーストフード文化を学校給食にまで持ち込むことで、私たちは事実上その業界の価値観を支持し、肥満と学力格差を広げ、ジャンクフード中毒を許してきました。こうした有形無形のコストは、すべての子どもたちに地産地消で持続可能な学校給食を届ける予算を上回るのではないでしょうか」

"The Fate of Our Nation Rests on School Lunches" - TIME Magazine

「公立学校の子どもたちに栄養価の高い地産地消の給食を届けることは、国の可能性を養うために必要な、平等主義的なメカニズムです。この考えが長い間、軽んじられてきた結果、私たちは、健康、教育、不平等の巨大な危機に直面しています。
 私たちは、栄養価が高く、持続可能で、無料の学校給食プログラムをすべての子どもたちに届ける勇気、そして信念を持たないとなりません。
 そして、そんな給食を "食べること" そのものを、毎日の授業に組み込んでいきましょう。いつからか「Physical Education - 体育」が必要な科目と認められたように、今、私たちには「Edible Education - 食育」が必要なのです。学校で食事をとることが学校生活の中心となり、その体験自体が大切な学びになるといい。もちろん、そんな大規模な計画は一朝一夕でできるものではありませんが、私たちが進むべき道ではないかと思うのです。
 私は、すべての子どもたちに手を差し伸べ、永続的な影響を与えたいのなら、学校給食改革ほど効果的なものはないと心から信じています。公立学校という制度は、私たちに残された、真に民主的な最後の制度なのです」

"The Fate of Our Nation Rests on School Lunches" - TIME Magazine

「私は、エディブル・スクールヤード・プロジェクト(Edible Schoolyard Project)を通して長い間、公立学校のこの分野で働いてきました。子どもたちが本物の食材を使ったおいしい食卓を囲むことで、生活態度や行動が変わるのを何度も目の当たりにしてきました。学校給食を学習指導要領の一部とすることができたら、子どもたちに生きた知識と自ら決断する力を与えることができます。
 自分たちの食べ物がどこから来ているのかを知ることで、子どもたちは、自分たちをターゲットにした10億ドル規模のマーケティング・キャンペーンにも目を向けることができるようになります。私だけでなく、他の多くの教育者たちも知っているように、一度きちんと作られた本物の食事を体験した子どもたちは、健康的な選択肢を捨てることはありません。

"The Fate of Our Nation Rests on School Lunches" - TIME Magazine
Edible Schoolard のキッチンに貼ってあったカード。
1. 考えてから買おう
2. 心を込めて料理しよう
3. 小麦とお肉を減らしてみよう
4. 地元食材を食べよう
5. お皿に盛るのはちょうどいい量でね
6. 残りものを使おう

 「どんな政治家でも、食にまつわる病気、飢餓、環境破壊など、この国が抱えるさまざまな問題の根源が "食" にあることを理解しているはずです。一人でもたくさんの人が本物の食べものを味わう機会は、解決策を見出す近道を作るでしょう。そのために、学校から始める - これ以上にいい方法があるでしょうか。
 子どもたちに食事を与える方法を、調理や食材調達のあり方から根本的に変えることで、一世代ですべてのアメリカ人の食生活を変えることができます。それはきっと、国土の健康、そして国の本質的な価値観を取り戻すことにもつながっていくと思うのです。

"The Fate of Our Nation Rests on School Lunches" - TIME Magazine

TIME誌のこの記事は約10年前のものですが、時間が経っても発想がブレないのがすごい!アリスはこの10年間、カリフォルニア大学や州知事とも話を重ね、子どもたちの食を変えるために動き続けていました。

当初は子どもたちの健康と食リテラシーを国の未来を結びつけて考えていましたが、今はさらに、食の流通や経済のありようとも連動させ、もう一つ大きい絵の中に学校給食を位置付けています。

TIMEの記事が出た頃から10年間をかけて出した新著『スローフード宣言』の中では、日本の産直運動からヒントを得て欧米で根付いた「CSA: Community Supported Agriculture(地域支援型農業)」の進化版として、「SSA:School Supported Agriculture(学校支援型農業)」という造語を作り、説明しています。

 地域支援型農業(CSA、Community Supported Agriculture)も、地域と農家を結ぶ素晴らしい成功モデルです。CSAでは、農家がこれから育てる野菜に対して前払いをします。そうすることで、農家にはあらかじめ収入が保証され、購入者には毎週又は隔週などで、農園でそのとき旬な食材が箱いっぱいに届きます。夏ならサンゴールド・チェリートマトやバジルにプラム、冬ならカボチャや根菜、チコリという具合に。CSAが根付く地域には、頼もしいローカル経済圏が築かれていきます。農家は直接支援され、地域も栄養で育まれる。つまり、共生する関係性ができるのです。
 同じように、全国で学校が地域を元気にしています。学校は教育の道しるべであるだけでなく、地域の環境再生型農業や酪農を支える上で、安定した経済支援システムにもなり得ます。これを私は「学校支援型農業(SSA、School Supported AGriculture)」と呼びます。

『スローフード宣言〜食べることは生きること』(海士の風) p198
千葉県いすみ市では、学校給食で地産地消の有機米100%を実現。
当初、有機米づくりをおこなっていた農家はゼロだったところからのスタート。
学校給食で全面的に使用したことで現在は30ヘクタール以上の産地にまで成長している。
その生産量の約半分は地域の学校給食に使用されており、農家の所得安定にも寄与。
オーガニック給食マップの記事参照)

 CSAで前払いを受けることで農家が食材を育てるのを支えることができるのと同じように、学校も、信頼できる安定購入者になることができます。地域の農家や酪農家は、食べ物の本当の値段を仲介業者なしに直接、前もって受け取ることができるようになるのです。シェ・パニースが50年前に地域ではじめたのも、まさにこれでした。
 (米国では)毎日3000万人の子どもたちに食事を提供する学校給食は、地域で最も大きなレストラン・チェーンとも言えます。大学を含むすべての学校が、例外なく地域の生産者から食材を購入するようになるとき、本当の変化が起こります。環境再生型農業、地域社会、学校が、ウィンウィンの関係になるのです。子どもたちには、学校の食堂に足を踏み入れるだけでスローフード的価値観が浸透していくことでしょう。

『スローフード宣言〜食べることは生きること』(海士の風) p199
島根県海士町の地産地消給食


来月、『スローフード宣言〜食べることは生きること』の出版1周年を記念して来日するアリスに、「日本で楽しみにしていること、やりたいことはある?」と聞くと、場所でも食事でもなく、「変わりたいと考えている、学校の校長先生に会いたい」と言いました。「話すことで力になれるとしたら、とても嬉しいから」と。

予約の取れないレストラン「シェ・パニース」のオーナーシェフとして有名なアリスですが、彼女の人生後半のライフワークは、子どもたちの食を変えること、そうすることで地域を豊かにする、生かしあう経済を作ることなのだと理解しています。

アリスの言葉を受け、今回のツアーでは、日本各地で「地域を豊かにする給食」と「生かしあう経済」の先進事例を巡ることにしました。

島根県 
 海士町の地産地消給食
 大森町・他郷阿部家の食事
滋賀県 
 立命館大学が目指す、地域に根ざしたガストロノミー
京都府 
 京都市で行うビジネスリーダーとの対話
 「オーガニックビレッジ宣言」をした亀岡市
徳島県
 神山町の食農教育と「スクールフードフォーラム」
東京都
 都市の屋上菜園が育んだ生かしあうつながり

来日スケジュール、訪問先の詳しいことはぜひ、海士の風の記事でご覧ください。

「なぜ、今、学校給食なのか?」- アリスには、目の前の子どもの健康だけでなく、教育、地域、農業、そして行き詰まりつつある経済をも豊かにする、最も直接的で、自然で、かつ喜びに満ちた方法として「学校給食を変えたい」という願いがあります。それを自分なりにまとめてみようと今回の記事を書きました。

来月、日本で動き出した事例の数々をアリスと共に訪れること、本当に楽しみです。ツアーの映画化についても、ご協力をどうぞよろしくお願いします!

この素晴らしい体験を自分たちの中だけにとどめず、広く日本社会全体と共有したい!
そんな思いから、今回のツアーは映画化することにしました。

映画を通して、食べることから "生かしあう経済" が広がる実感を次世代にまで広げていきたい。
そんな夢を形にする資金を、皆さまからご協力いただけたら幸甚です。
2023年9月21日〜10月31日までクラウドファンディングを実施中です。

<映画化!>アリスが願う未来 〜 地域を豊かにする給食と "生かしあう経済"
ご支援、どうぞよろしくお願いします!


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