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集団遊びと大人の関わり

わたしたちが運営している保育園「うみのこ」に、この4月、大学を卒業したばかりの若い先生が仲間入りしてくれました。アカハライモリにとても詳しく、自然の中で遊ぶこと全般が大好きで、いつも全力で遊んでくれる「オートマ」が、子どもたちは皆、大好きです。


そんなオートマが、先日のミーティングで言いました。

 うみのこでは、毎日の朝の集いで「今日はみんなでどこに行こうか、何しようか」と話し合って、子どもたちが自分の時間の過ごし方を自分で選ぶところから1日が始まる。それは素晴らしいことだけど、行き先もすることも実際にはある程度、大人があらかじめ調整をしているところもある。
 そんな中で、朝、外に出かける前とか、給食を片付けてからお昼寝までとか、大人側が完全に何も設定していない自由遊びの時間、ちょっとした隙間に、子どもが今ほんとうに夢中になっていることが垣間見える気がする。

今で言うと、子どもたちの間で「宇宙船ごっこ」が流行っています。テラスに出した上着ラックや段ボールを使い、自分たちで作ったちょっとした小さな空間に入り込み、宇宙への冒険をしています。それも、何日も続けて。

オートマの呟きを聞いて、園長れおっちが言いました。

 そう!その子どもの世界を見つけたときに、どう環境を設定したらそれが広がっていくかを考えるのが、保育者の仕事なんだよ。
 朝の集いでも、ときにはこちらからの提案が完全にゼロな状態から「何しようか」と話し合ってもいいよね。だけど、それはすごーく時間もかかる。年少さんだと海にはどんな遊びがあるか、山に行ったら何があるか、まだ知らないからイメージが湧かないってこともある。
 年長さんくらいになってくると「春のこの時期なら裏山を歩けば野イチゴがあるんだよな」とか、「暑い日にボードを出して冷たい海にドブン!ってするのは気持ちいい」とか、「秋になったらあの公園にどんぐりを拾いに行ってまた炒って食べたいな」とか、冬の焚き火のあったかさとか… 経験を重ねているから、季節や天気に合わせた楽しい遊びを自分で考えたり、イメージを膨らませたりできるようになるよね。

裏山の蘆花公園にはたくさんの野いちご。
来年もたくさん実るように「全部とったらダメだよ」という気持ちも、大切な学び。
暑い日にはこれがいちばん!
うみのこ給食の味噌は(と醤油も!)、園児たちが作っています。
あったかい大豆の感触や、搾りたて醤油の幸せも、毎年やれば自分の一部になるかな。


 子どもも人間だから、実は面倒くさがりな面もある。なんでもいいよ、というと「外に出たくなーい」って言う子も多いでしょ。でも、外に出ちゃえば結局みんな楽しそうだし、初めての経験にもたくさん出会える。時間をかけて子どもたちの経験の幅を広げていくのも、大人の仕事だよ。だから、バランスだね。

 宇宙船遊びに夢中になっていると感じたら、チャンス。その子たちに声をかけて図書館まで散歩して、宇宙船の本を探してみてもいいよね。造形の先生のゆうちゃんと相談して、廃材から宇宙船を作ってみてもいい。
 うみのこには、季節ごとの自然体験や、そこに合わせた造形・食育の活動がある。それをベースに、どう「子どもから始まる保育」の幅を広げるか。腕の見せどころだよ。応援するから、ぜひ考えて、やってみてよ。

オートマが大きな目をもっと開いて、真剣に聞いているのが印象的でした。

散歩の途中は、寄り道だらけ。


話を聞いていて、わたしは、れおっち自身が手がけた「子どもから始まる保育」の数々を思い出していました。

たとえば去年。

ちょうどこの時期くらいからだったか、うみのこ年長さんの子どもたちの間で「ニンジャしゅぎょう」が流行りだしました。

雨の日に外に出かけ、両手を忍者のように顔の前で組み、高架下に滴り落ちる雨水を頭から受けてみる子。わざわざ「地獄のかいだん」を走って登る子。鬼ごっこするのも、「おれは青ニン!」「こっちは紫ニン!」となりきって遊んでいました。

それを見ていた園長れおっちは、じっくり半年以上の時間をかけて、子どもの描く世界が形になっていくのに寄り添いました。

子どもたちが楽しむのを見てすぐに「みんなで忍者屋敷でも作ろうよ!」と持ちかけるのは簡単です。でも、それはしません。子どもの遊びをただ見守って何もしないのも簡単です。でも、そうもしません。

じゃあ、何をするか。

まずは自分も一緒になって遊ぶ。遊びながら種をまき続け、程よい距離感から水やりを続けてみる。子どもの集団の中で何かが芽吹くタイミングを伺う。「育てる」というより、「育つ」のを待っている。

それができる大人が一人でもいると、子どもの集団はある時ワーッと一斉に花開くように思います。

最初は数人の遊びだった「ニンジャしゅぎょう」はいつからか、「みんなの楽しみ」になりました。よし、忍者屋敷を提案する頃合いだと思ったれおっちは、少し意識的にみんなを「トシさんの森」に誘うようになりました。お泊まり保育もそこで行って、何度も通うことで「トシさんの森」が少しずつ、自分たちのホームになる感覚を確かめながら。

もちろん、「ニンジャしゅぎょう」に夢中になっていく中でも、難しいことについては「やらなーい」と見ているだけだった子もいました。それが不思議と、みんなで話しあって巻き物ができたりすると、「(自分だけじゃなくて)みんなでできるようになりたい」と仲間から手が差し伸べられ、応援されるようになりました。そうなれば、自然と力が湧いてきます。

仲間同士で響き合い、難しいことにも挑戦して「できた!」を共に喜う姿、たまりません。

そんな風に時間をかけて、いつもの遊び場で少しずつ、枝で組んだ家を作り、縄ばしごをかけ、、、

という子どもの姿を見ていたら、なんと今度はお母さんたちまで動き出しました。

うみのこでは季節ごとに染め物遊びを楽しみます。紅花や藍、たまねぎの皮、ビーツ、セイタカアワダチソウ、ベンガラ... 年少さんの頃から季節ごとに楽しんできたから、年長になった今はみんなよくわかっていて、お手の物です。

自分で絞って、自分で好みの色に染めた布をお母さんたちに縫ってもらったら、、、もう、全員が「自分たちの場ができた!」という顔をして遊んでいます。

それぞれの色が素敵!

ほしい風景をイメージして、
仲間と響きあいながら世界に働きかけ、
自分たちのペースで形にしていく。

これを幼少期に体験できたら、きみたちはきっとこれからどんな場所に身を置いたって大丈夫!! って思います。

年長さんになれば、焚き火もお手のもの。


衣装ができた頃からは、もう大人が介在しなくても世界は広がり続けました。

大人もどんどん面白くなってきてしまい、切り出した長い竹を「トシさんの森」に運び込み、(大工仕事ができる山の持ち主の)トシさんのことまで巻き込んで、忍者の物見台=ツリーハウス作りもはじまりました。

それをずーっと見ている年中さん年少さんは、もちろん羨望のまなざし。忍者屋敷に招待してもらうと「この家に入るときは靴を脱ぐんだよ」とか、「自分で登れる人だけなんだよ」とか、年長さんが決めたルールをよーく知っていて、大人が何を言わなくたって「カッコよく」遊ぼうとします。

こうして子どもから子どもへの響き合いがループするようになったら、大成功。そこからは保育者はただ見守り、自分が楽しんでいれば良し。子どもたちは自分で考え、自分で遊ぶ、遊ぶ、遊ぶ!

釣りに夢中だった男子数人から遊びが発展して、
「自分の釣りざおを作ろう!」と盛り上がった年もありました。
竹を切り出し、桜の木でリールをつけた本格的な釣り竿!
釣れるのはほんの小さなスジエビやハゼの赤ちゃんなどですが…
おやつで唐揚げにすれば、釣った子は羨望の眼差しを浴びます!


釣りからの発展で「海にぼうけんに出よう!」と竹のイカダを作ったときも、楽しかったなー。出航は平日だったのに、気づけば働いているはずの父母も(他学年の父母まで😂)みーんな休みをとって、船出を応援しに来ちゃったりとか。

自分たちで切り出してきた竹だから、まだ乾いてない。すごい重さです😂!
だけど「オレたち」で運びたい! よいしょ、よいしょ。
春一番ですごい南風が吹き荒ぶ中、田越側から海への船出です。
距離で言えば、実はたったの300m。水深だって、大人の腰程度。
だけど、自分達で作ったイカだと、手作りのパドルを抱えた皆の気分で言えば
「これは、大冒険だー」!
ついに、海に出たぞー!
「このイカダなら、アメリカにだっていけるよね?」「しょくりょうがあればな」
なーんて会話が最高だった。


子どもからすべてをはじめて集団遊びが広がっていけば、
いつの間にか、子どもも大人もワクワクが止まらなくなっていく。

自然×子ども×身の丈+数センチの挑戦。
それがあまりに楽しそうで、美しくて、いつの間にか巻き込まれて
気づけば自分も成長してしまう大人たち。

わたしは、この眩しい化学反応を見ているのがとても幸せ。
は〜、今年も飽きる暇がない!




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