見出し画像

「和文と欧文のタイプセミナー」

7月29日に開催したFontworksとMonotypeのセミナー「和文と欧文のタイプセミナー」に参加して得たポイントをまとめました。実際のスライドは掲載できないので、代わりの画像を作りました。参考程度にしてください。

プログラム

藤田重信「筑紫書体の開発背景」
筑紫ヴィンテージ明朝や筑紫アンティーク明朝をはじめ、今年リリースを控えている筑紫アンティーク丸ゴシック等のデザインの特徴などを中心に、どのような背景や経緯で書体制作されてきたかをお話します。また、筑紫明朝の制作に着手した1999年当時の秘話や苦労話、その後、100書体以上のシリーズとなった豊富なバリエーション展開を進めてきた筑紫書体シリーズの変遷や曲線美のこだわりも解説します。

大曲都市「欧文ロゴのレタリング」
アニメやゲームなど日本のコンテンツが国際的に普及することが当たり前のような世の中になっており、その流通スピードも瞬間的になっている昨今、それら作品が日本で作られると同時にロゴが様々な言語にデザインされることも増えています。普段あまり親しみのない欧文ロゴのレタリングを、書体デザインの基本をベースに解説していき、また日本語ロゴとのすり合わせのアプローチを考えていきます。

「和文と欧文」 藤田重信 × 大曲都市によるトークセッション
ロンドン在住の大曲氏が、帰郷すれば必ず藤田の元を訪れるといった仲良しの2人。書体デザインにおける楽しさ、苦労話などを、同じ福岡出身で気心の知れた2人がそれぞれの視点からフリートークを行います。

登壇者情報

藤田 重信(ふじた・しげのぶ)
福岡県生まれ。1975年写真植字機の、写研文字デザイン部門に入社、1998年フォントワークスに入社し筑紫書体ほか数多くの書体を開発。「筑紫オールド明朝」「筑紫丸ゴシック」で2010東京TDC 賞を受賞。2016年NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演。また「フォントワークスUDフォント」がIAUDアウォード2016銀賞を受賞。「筑紫オールドゴシック‒B」「筑紫アンティークゴシック‒B」「筑紫アンティーク明朝‒L」「筑紫Q明朝‒L」「筑紫Aヴィンテージ明朝‒R」「筑紫B ヴィンテージ明朝‒R」で【東京TDC賞2018タイプデザイン賞】を受賞。

大曲 都市(おおまがり・とし)氏
福岡県生まれ。武蔵野美術大学でタイポグラフィと書体デザインを学び、レディング大学で書体デザインの修士号を取得後、2012年にMonotypeに入社。幻のネオグロテスク書体となっていたNeue Haas Unicaや、W A Dwigginsの名作Metroを改刻したMetro Novaの開発など、Monotypeで重要な書体プロジェクトを担当。またキリル文字、ギリシャ文字、アラビア文字、チベット文字など多言語対応の経験も豊富で、H&Mやプレミアリーグなど国際的なブランドの制定書体を数多く手がける。その知識や多国語書体デザインの経験を活かし、ATypIなどのイベントで定期的に講演を行う。


画像1

藤田重信氏「筑紫書体の開発背景」

ここでは、活字印刷文字の時代の文字にある、「潤い」と「体温」を感じられる筑紫書体の開発についての解説です。書体の作り手の思いや意図を知ることで、今後いろいろな書体を見る際のポイントに役立ちます。

※実際の筑紫書体シリーズは、こちらでご覧ください。

書体開発が進む中での意識の芽生え
活字印刷文字:インク溜まり・滲み・ボケが悩み
デジタルフォント:インク溜まり・滲み・ボケが解決
デジタルフォントにより「潤い」のない文字になってしまった。
そこで、あえて活字印刷文字を復活させるような書体を開発した。



筑紫書体は運動の見える明朝体漢字デザイン

● インク溜まり
一般的な明朝と比べて「起筆」「返し」「終筆」部分に
大きめのインク溜まりをつくった。

● エッジのボケ
筑紫書体の明朝には、写植時代のエッジのボケを
デザインに取り入れた。

上記のインクの滲み、溜まり、ボケを取り入れると
文字面はアンティークムードになる。

● シャープ+柔らかさ
筑紫書体の明朝体は「漢字」に
シャープさと「柔らかさ」を加えた。

● ハライのデザイン
明朝体の漢字の右ハライデザインに最も筆の流れを生かした。



制作過程
● Twitterに文字を作ってアップしていた
● 制作は思いつく単語で作った
● 古い書物の1文字からインスピレーションを得る


画像2

大曲都市「欧文ロゴのレタリング」

欧文を中心に活動されているタイポグラファーによる文字の形、スペーシング、和文と欧文のすり合わせ方の解説。ここの内容は、正しいやり方ではなくアドバイス。

画像4

<文字の形>
線幅の強弱のルールはカリグラフィから
基本はすべてにおいてカリグラフィのルール。

オーバーシュート
※オーバーシュートとは:ちょっとはみ出た量のこと
TやRのような正方形の文字に対し、Oの文字は同じ高さにすると「O」が小さく見えてしまう。なのでOを大きくしTやRと並べて違和感のないように調整を行う。

他にも細かいポイントをチェックしている。
・丸い太線はまっすぐな太線より太く
・関節部は細める
・様々な字形を使いこなす

画像5

スモールキャップがない場合のロゴ作り
CAPITALと組む時に、最初の「C」以降の「APITAL」を小さくすること。
その時には「文字の太さ」などを変更し調整する。

書体の混合は単語やフレーズごとに
Cool Typeという文字があった時に、最初の「C」と「T」だけは同じ書体にしたり、「Cool」と「Type」で別々の書体を選ぶこと。

1文字ごとに書体を混合する際は関連性の高いものを
違和感が強くなるので似たような書体で組むとバランスが良い。
ブラックレターは書体違いも組み合わせやすい。

画像6

<スペーシング>
ステムとカウンターの基本リズム
1文字づつを正方形の箱でみた時に、横の文字との間を調整する。調整する中でだんだんと上下にぼかしをつけると、より調整がしやすい。

ギリギリまで詰める
詰めすぎるとくっついてしまうため、くっつけすぎてもいけない。

字形を改善するための字形
スペーシングとは全体を調整すること。間の調整だけではない。
他の文字の要素を元に移植させて調整したりする。

大文字の合字処理
文字同士をつなげる処理。書体によってはないので、個別に作成・調整。



<和文と欧文ロゴ>
・日本語と欧文のサイズ
日本語は複数種の文字があるため、文字単体のサイズ変化に寛容

ロゴを作るときに、「漢字とひらがな」の「と」だけを小さくしたりしてもあまり見栄えが悪くならない。

欧文でサイズに変化をつける際は単語単位、長いか重要度が低い単語を縮小
欧文の場合には、単語で小さくすることになる。

・配置の崩し方
文字のサイズ、配置を崩すときはほどほどに、平面のエレメントの少ない字形デザイン
たとえば奥行きを表現したロゴなどにする場合には、エレメント(飾り)のない方が作りやすい。

・ロゴのスタイル
フリースタイル、手書き系だとスタイルは合わせやすい
フリースタイルな映画のロゴなどの場合は、欧文も日本語も似たような印象でつくることができる。

活字っぽいデザインはベタ移植しづらい
一方で、活字らしさ(例ではウルトラマンなど)のあるデザインは、欧文では違和感を感じる。


画像3

「和文と欧文」 藤田重信 × 大曲都市によるトークセッション

前半では二人がなぜ文字にハマったのかのルーツをたどる内容。後半は今の書体作りに対する意見交換。

●大曲氏の文字にハマったきっかけ
文字に興味を持ったのは、大学で大町先生の授業を受けたことと小林さんの本を読んだこと。中学時代から、テストの答案用紙の裏に文字のレタリングなどをしていた。

●藤田氏の文字にハマったきっかけ
授業でレタリングの評価がクラスで1〜2番になるほど高かった。就職で写研を勧められ、その後30歳になってから石井明朝に惚れて、文字が大好きになった。

●最近の書体の流れ
昔の自動車はいろいろなデザインがあったが、最近は一つにまとまってきている。書体も昔は金属活字で綺麗にできなかったが、今は均等に整えることができているため、自動車のデザインが一つにまとまる感覚と似ている。

昔の書体の方がはっちゃけていたり、壊れていたり、愛らしい味がある。文字として成り立っている。

20〜30年前までは明朝体は個性を消すべき、水や空気にすることが良いと言われていた。いろいろな明朝体があるが、どれも読める文字。品質が高く整っている。どれも水や空気のよう。

●書体制作
書体には伝えるメッセージ性がある。伝えたいメッセージ性を考えると、正しい水と空気にはなりきれない。消し去らなくてもいいのではないか。

心地よい小説を読みたい、そんな感覚を求めている。岩田明朝、凸版明朝、それぞれ紙面の濃度は変わる。眼で感じる香りが違うから、いいムードをつくる。

行を追うときは抵抗がある。この抵抗が心地よいか、心地よくないか。ここに本文のフォントデザインの力量がうまれる。眼で行を追う時のなめらかなしっとりしたものを目指しているのかも。

欧文では今ではなんでもかんでもやる。定番や正解は出し尽くされて、新しいものに貪欲になっている。


画像7

藤田さんの話は、古い書物からヒントを得て新しい書体を作っているという話が面白かったです。Twitterで制作経過をアップしているのも、今の時代ならではだなと思いました。

大曲さんの話では、ロゴ制作でのヒントが満載でした。個人的には意識したことがないポイントも多く、目から鱗な話でした。実際はセミナー中のスライドと説明が実践的でわかりやすかったです。

9月もまたイベントが開催されるようなのでとても楽しみです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?