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わらしべ長者 (4)

島に降り立つと、意外に大きな街であることに驚いた。
診療所がある様な小さな島かと思いきや、この規模であればどうやって連絡の取れない相手を見つけたらいいのか。。どうする事も出来ず歩いていると、ひときわ、私を惹きつける美しい店構えの小物屋さんがあった。大振りの天然石や、シーグラス、流木などをあしらったピアス、置いてある物全てと波長があって、惹きつけられるものばかりが置いてある店だった。店主が話しかけて来てくれて、雑談していると、この話にもあっと言う間に引き込まれていった。私は初めて会うこの店主に、この島に来た経緯を話し、どうやってその人物を探したらいいだろうかと尋ねていた。「この店に入って来てくれた事は、私とあなたの共感するところが大きいからだ。私とあなたが繋がっているとすると、この島のことをよく知る私がこれから紹介する場所に行けば、そこにはあなたの好きなもの、共感するものがあるはず。その場所にいる人に話しかけて、次に行く場所を尋ねてみたら良い。その人の波長の会う場所であれば、また、あなたは気にいるだろうし、それを繰り返しているうちに、きっと彼に出会う。なぜなら、彼とあなたも繋がっているからだ。」と言われ、素直に納得し、行くあてもない私はそのまま、わらしべ長者の様な旅を始めた。

自分でも知らない間に心身憔悴していた私は、旅を続けるうちに、島の自然や丁寧な生き方、出会う人に癒され、紹介される場所やカフェ、宿、自然やアートを見たりする内に、自分を見つめる機会を得る事となって行った。

ある美しい岬にあるカフェに行った時、オイルマッサージをしてくれる女性の可愛らしいチラシが目に付いた。その番号に電話してみると、感じの良い女性が出て、その日の夜にホテルで施術をしてくれる約束となった。その頃、精神が追い込まれた状態になっていた私は行動できる時と、動くこともままならない程、うつ状態になることがあった。彼女がホテルに来てくれる直前、また体が動き難くなり、シャワーを浴びてタオルを巻いたまま動くことが出来なくなってしゃがみこんでいると、浴室のカウンターに置いてあったいつも身につけていた大きなムーンストーンのペンダントがなんの前触れもなく床に落ち、真っ二つに割れてしまった。Tを見つける事も出来ず、東京に置いて来た家族に黙って宮古島で来ていたこと、これ以上、これまでの東京での暮らし、「自分を殺して息を潜めて生きることが出来ない、、」この極限状態を引き受けて大切にしていたムーンストーンは砕け散ったのだ。

夫に従順でいたいと思うことが美徳であると思っていた。日本女性であれば、少なからずそうは周囲から見えなくても、夫の思いに答えたい、世間的な妻としての立場を守るべきだという気持ちが誰にでもあるのではないかと思う。ある意味、精神的に夫にも自分自身の思想にも支配されていた私は知らぬうちに大きな制限をかけて暮らしていた。

この島に一人で来た事は、それまでにない思い切った行動として、私を変えるきっかけとなり、私に勇気と力を与え始めていた。直感によって今日を生き、瞬間瞬間を自分で直感的に判断することができるように日に日になって行った。私は癒されていき、更生されて来る自分がいるのがわかった。しかし、日1日と時が経ち元の生活に帰らなければならない、、本来の自分を圧し殺して生きている世界に戻らなくてはと言う気持ちとの葛藤が、私を鬱鬱とさせ、身も心もむしばんでいた。

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