見出し画像

桐野夏生『燕は戻ってこない』

経済的理由から代理出産を受け入れる女性と、依頼する側の夫婦+夫の母の物語。

どちらかというと代理出産してあげる側のリキの立場で読みました。が、ごく少数ではありましょうが依頼を検討せざるをえないほど、追い詰められている発注側の女性もいるのでしょうね。

その目線で読むと、生まれたあとの引き渡し拒否の可能性など契約違反についてのリスクがあれこれと描かれています。

例えば発注者は夫婦ですが死別や離別で夫婦という主体が消滅する可能性は随時あり。

子が欲しい思いが強く支払い能力(契約遂行能力)が高い方が個人で依頼者になり、依頼者に何かあった際に2番目3番目の契約継承者に育てる義務が受け継がれ…
という形だと、押し付け合い的状況は回避できるのかな。

本作では押し付け合い的状況に寄ることもありますが、どちらかといえば取り合い的状況の方が多く描かれています。

押し付け合いも取り合いも、代理出産でなくとも子のある状況ではよく起こっていることです。
(代理出産の取り合いは依頼した方とされた方という婚姻の外側で、ではありますが…)

また、何を持って「誰の子」とするか、も一般の出産でも起こっていること。DNA鑑定か「実際どうであれ」という決めの問題、腹のくくり方か。

そういう意味では、代理出産の外側にいる人も自分に関わってくることとして諸問題に出会うことになります。

リキって変わった名前だなぁと思っていたら、オビに文明の利器とあって、そことかけているのかと思いました。
登場人物の苗字、大石、草桶も石とか草とか死やお墓を連想させるものが多く、不穏さが漂います。

NHKでドラマ準備中らしく、発注者夫婦の夫の方は長谷川博己さんふうのルックスをイメージしていましたが、稲垣さんが演じられるよう。わかるような、演技力要なような、楽しみです。

ラストは…
5年後、10年後、20年後とそれぞれいろんなパターンの続編を妄想してしまいます。

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,210件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?