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♯07 モラハラ夫との関係にテコ入れ。不妊治療を8年でやめた「そねちゃん」の話

体外受精はシステム自体がおかしい!


「いつかの年賀状でも書いたけど、8年くらいやってやめたんだよね、うちは。
私は、体外受精で採卵したら結構卵はちゃんと採れる方で、受精も割とちゃんとする。でも、子宮に戻しても着床しなかったり、初期で流れちゃったりってその繰り返しだったの。当時、受精卵の染色体の状態をきちんと検査して、可能性が高いものだけを子宮に戻す(※)ってことをしている医院が神戸にしかなくて。それにチャレンジしたいとまで思ったのだけど、神戸に通うなんて、現実的に無理じゃない? でも自分としては、流産しやすい受精卵も戻してみないとわからない、で、戻すのにはまた高いお金がかかるっていうそのシステムがとても非効率に思えて。もう、このシステム自体がおかしいじゃん!って感じてしまってね。どれだけやっても授かる保証はないのに、どんどんお金が消えていくから…。」

そねちゃんは、そねちゃんらしいやわらかな雰囲気で、体外受精のシステム自体への怒りを話してくれた。当時の私にはない観点だった。

「毎回今回が最後と言い聞かせながら、何度もトライして……。
 助成金の制限回数も越えてしまった時に、旦那さんがね
 
『もういいじゃん、自分たちのために、
 自分たちの楽しいことのためにお金使おうよ。』

って言ったの。普通にご飯食べてる時にね。
その一言で、なんかその通りだなぁって思えたの。で、やめたんだ。」

夫婦ふたりで東京近郊に暮らしているそねちゃんは、フリーランスでIT関係の仕事をしている。元々はWEB制作会社に勤務していたが、システムの部分が気になり始め、専門学校に通って手に職をつけた。学生時代のそねちゃんからは想像できない、バリバリ理系の道を進んでいた。
そんなそねちゃんの、不妊治療を辞めた理由で出てきたワードが「効率」「システム」というのが、頷けた。もっともっと感情的な部分での話が繰り出すかと思っていたのだけど……。

「少子化の日本で、一生懸命子どもを作ろうと頑張ってるのに、なんでこんなにお金がかかるの!って、腹が立ったね。でも、旦那さんのその一言に、なんか救われたような気がして。」

二人の趣味は旅行だ。国内の高級温泉旅館を巡るのが二人の楽しみなんだとか。1回何十万とかかる体外受精、回数を重ねるとすぐに3桁を越える。これらを旅費にしたらどんな贅沢な旅行ができるだろうか。きっとリアルにそう考えたに違いない。

この決断に至るまでの、二人の物語を、結婚から遡って聞いていくことにした。

(※着床前検査(PGT-A・PGT-SR)。欧米では流産を防ぐ目的で実施されているが、日本では当時、日本産科婦人科学会が命の選別につながるとの観点から認められていなかった。2024年現在では多くのクリニックで採用されている。)


夫のDVに物申す。


そねちゃんが結婚したのは28歳、旦那さんは4つ上。
元々、結婚願望が強かったというそねちゃんだが、たまたま誘われたBBQで出逢った旦那さんに“すごい好みのタイプだ”とぐいぐいアプローチをされ、当時結婚を迷いながら付き合っていた彼と別れて、旦那さんと結婚したという話だった。

「そねちゃん、ドラマティック!!」

そねちゃんは照れくさそうに、フフフと控えめに笑った。

「でも、付き合ってた彼と別れてまでって、旦那さんは結構タイプだったの?」

「いや、実は全然。夫の方も一度断ったのだけど、それでもめげずに来てくれて。タイプじゃないけど、なんか落ち着くなぁとは思ったの。自己肯定感が強い人で、楽観的というか、カラリとしてるというか。今まで好きになった人にはいないタイプだった。私、恋愛はずっとうまくいかなくてね、自分の方が “スキスキー!”ってのめり込んじゃう質で、実はそれで同じ失敗を繰り返してて。だから……」

「じゃあ、今までにいないタイプだったのがよかったのかもね。」

結婚後2年くらいは避妊をしていたのだそう。理由を聞くと「ケンカばかりだったから」とのこと。こんな状態で子どもができてもかわいそうだなと思ったと教えてくれた。ケンカの理由を聞いてみた。

「なんだったかなぁ。いつも些細なことだったと思うけど。なんかね、向こうが結婚前に思っていた性格と、私が違ったみたいで。私、結構ジャジャ馬な部分があるんだけど、もっと優しくておねえさんみたいな性格だと思ってたって言われてた。」

「えっ何それ! そんなの知るかって感じだねっ!」

あんたが勝手に想像して惚れ込んだんだろうが!!と、友人としては言いたいのは我慢して続きを聞いた。

「まぁ、私も頑固で譲らない性格だから。それで色々ぶつかることが多かったのかな。家事とかも、向こうはすごくきっちりするタイプで、私はぐちゃぐちゃの人。だから、私にもきちんとやってほしいって、そんな感じで。」

それぞれ得意な方が得意な事をやればよかろうも!!
と、またも言いたいのは我慢。

「言葉の暴力的な感じなのも出てきて、DV…とまでは行かないけど、いや、一回手も出たんだよね。」

いや、それは立派なDVである……。聞けば、グーパンチが出たということだった。

「あーあ……って思った。でもね、ちゃんと言ったの。それはまずいよって。」

「え、すごいね。自分で本人に向かって言ったってこと?」

「そうそう。私は言うよ。どんな理由があったとしても、手を出したらもう、やった方が負けだよ、悪いってことになるよってはっきり言ったの。そしたら、ハッとして、なんか気づいたみたいで。だから、手をあげられたのはそれ1度きり。」

旦那さんとは面識はないので、言いたい放題言わせてもらうが、勝手にそねちゃんのやわらかな雰囲気に惚れ込んで、きっと勝手に自分の都合の良いそねちゃん像を作り上げた挙げ句、思ってたんと違う……で言葉の暴力、そして手をあげるだなんて、なんと勝手だ!と驚いた。でもそれ以上に驚いたのは、そねちゃんの冷静な対応と芯の強さ。勝手にそねちゃん像を作り上げているのは私も同じだ。

「私もさ、気が強いんだよね。」

学生時代では気づけなかった、知らない一面だった。

「だから、こんな状況でここに子どもが来てもかわいそうだなと思って。二人の関係が落ち着くまではちょっと待とうかなと。子どもが欲しいという話自体まだしてなかったから、自然と結婚前と同じように(コンドームを)付けてねって感じのままだった。それが2年くらいかな。」

一度だけ手をあげてしまった夫に対して「DV」という言葉自体を使うべきか、気にしながら当時の話をしてくれた様子が印象的だった。

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