#6 松前漬づくり
それはつくるもの
私の実家の父方は、北海道にルーツがある。まぁ北海道の人ほとんどが、ルーツを辿れば明治維新前後に本土から渡ってきているはずなのだけど、ひとまずそこは置いておく。そういう茶々は入れないで話を戻すが、父が札幌の生まれで、祖父は函館、祖母は留萌だ。こんな背景で、私は物心ついた頃から、12月には松前漬を作ることが家庭のミッションだと思って育った。
そのせいか、世間で松前漬とは買うものだと知ったのは大人になってからだ。食べたことはないが、デパートで売っている松前漬は甘いという。私は想像しただけで、箸をつける気も起きない。なぜならうちの松前漬は塩辛いからだ。砂糖は、入らない。
たぶんおばあちゃんの味
我が家の松前漬のレシピは簡単だ。
材料は、昆布とするめと人参で、調味料は醤油と料理酒とみりん。これだけ。作り方も単純明快。道具はキッチンバサミ。昆布を切る。なるべく細く切る。スルメも切る。なるべく細く切る。人参は包丁で切ろう。なるべく細くだ。大きなタッパーに全部投入し、醤油と日本酒とみりんは1:1:1.5で入れる。
あとは1週間強漬けておく。ただそれだけ。これがうまい。10日ほど経てば、炊き立ての白いご飯と松前漬だけで何杯でも食べられる至福の時間を得ることができる。特に門外不出のレシピでもないので、クックパッドに我が家の秘伝を勝手に載せたところ、私史上大変な好評を博した。つくれぽ12、クリップ数611である。
さて、今年はどうしたものか。嫁入り1年目の私は、健気にも夫に手作り松前漬を作った。夫は料理人だが、私が作ったものはおいしいおいしいと言って喜んで食べてくれる。できた夫だ。私たちは新婚だけどまだ別居中なので、夫の家で我が家秘伝の松前漬を作って、そのまま置いてきた。自分用には作っていない。
おあずけの年
しかしこれは由々しき事態だ。私の大切な年越し食がない。食べたいくせに、自分だけのためには作る気は起きない。実家は横浜で、実家には父が作った同じ味の松前漬はある。だがこのコロナ禍において、松前漬のためだけに大阪から帰省するのは百害あって一利なしだ。今年はいつもの正月はおあずけか。
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