春の山菜は「田舎のおばあちゃんの味」
四月に入り、ららん藤岡の農産物直売所にも待ちに待った春の味覚が並ぶようになった。そう、この時期にしか口にできない山菜だ。タケノコ、わらび、ふき、うど…。調理する前にあく抜きをしたり面倒はあるけれど、かすかな苦みやえぐみ、甘みやうま味、サクサク、ねっとりとした歯ごたえは、手間をかけただけ十分に報われると断言できる。この繊細で複雑な食材を思う存分味わえる日本に生まれてきたことに感謝する。
今年、初めて生のわらびを買ってあく抜きをした。下処理が面倒くさそうで敬遠してきたのに、直売所に置かれた、ピーンと元気なわらびを目にした瞬間、えいっとかごに入れてしまった。
「山菜のあくヌキ」なる「そのまんま」の名前の粉末を沸騰させた湯に溶かしたものにわらびを一晩漬けるだけで、拍子抜けるほど簡単に下準備ができた。(この「山菜のあくヌキ」は、たけのこにも使える。米ヌカを使うときより茹で時間が短く、シャキッとした仕上がりになるので気に入った。)
まずは、義理の父の助言を受けて、あく抜きをしたわらびをそのまま2cmくらいの長さに切って、しょうが醤油で和えてみた。火は通っているもののほとんど生に近い触感でシャキシャキしていながらもねっとりした歯ごたえが、サッパリした生姜によく似合う。
続いて、「豚うす切り肉と油揚げとわらびの煮物」を作る。カツオと昆布の出汁をベースに、醤油・砂糖・みりんで味を付ける。くたっとなったわらびに出汁がやさしくしみ込んで、とろけるように旨かった。これ、「田舎のおばあちゃんの味や~」と、叫びだしそうになり、いやいや自分まだぎりぎり40代やんと思いとどまり、「田舎のおばちゃんの味や」と真顔で言い直した。
次の週末、わらびに味を占めた旦那さんが「ふき売ってるよ」と余計な誘いをかけてきた。「ふき~?面倒くさいんだけど。作ったことないし」と返すと、「大丈夫、大丈夫。なんでも挑戦だから」と無責任なことをしれっと言う。誰が作るんじゃいと悪態をつきながらも、朝採れたてのみずみずしい翡翠色の誘惑に負けてお買い上げとなった。
Youtube動画を頼りに、まずはフライパンに水を沸かして、塩で板摺したふきを茹でる。太い茎は5分、細い茎は3分したら水にあげて皮をむく。皮むきは意外と時間がかかるが、シュルシュルと剥けた皮がたまっていくのが面白い。茹でたてのフキの透明感は半端ない。皮むきを頑張った指の爪がアクで黒くなるのは悲しいけれど。
ふきはちくわと一緒に胡麻油で炒めてから、やはりカツオと昆布の出汁とみりんと醤油で炊く。一口食べて、あれれ、ふきってこんなに美味しかったんだぁと夫婦で顔を見合わせる。青臭いようなふきの独特の風味が、出汁のうま味にふわんと包まれて、シャクシャクと噛み締めるごとに味蕾が踊っているのがわかる。ちくわとふきを交互に箸が止まらない。これもまた、「田舎のおばあちゃんの味」に認定となった。
疫病が流行り、県外への外出もままならなくなり、旅行もおいそれとできなくなった。そんな中に訪れた春が、私に新しい食の喜びを教えてくれた。まだぎりぎり40代だけど、この際だから開き直って「田舎のおばちゃんの味」改め「田舎のおばあちゃんの味」を追究していくのも悪くない。山菜の春が来るたびに、一つ歳をとるごとに新しい味を身につけて、だんだん本当の「田舎のおばあちゃん」になっていく。それはすごく素敵なことかもしれない。