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そういうときもあるよね

 この仕事を始めて2年目。わたしが子どもたちに向けて、魔法のように使う言葉がある。
それが、このタイトルの言葉だ。

先生!階段で転んじゃった!
先生!牛乳こぼしちゃった!
先生!〇〇さんが泣いてる!
先生!その字間違ってるよ!

 毎日毎日、「先生!」と信じられない量の報告が投げ込まれる。子どもたちは至って真剣で、「大変大変!こっちきて!」と沢山の仕事をくれる。

 もちろん、全ての報告に反応する。怪我なら手当てをするし、喧嘩なら話を聞くし、自分の間違えはすぐに直す。(最善と思うときは放っておくこともある。)でも、その「対処」よりもまず先に大切にしたいのは、その報告に返す言葉なのだ。

 パニックを助長せず、周囲の不安を煽らず、事を大きくせず、それでいて、否定せず、軽んじず、ただ受け止める。その役割を全うしてくれるのが、「そういうときもあるよね。」である。

 これを言うと、まず自分が冷静になる。そして、齢の小さい子どもでも、不思議と落ち着くのである。「そっか、そう言う時もあっていいのか。」という顔をする。この顔がめっちゃ愛しい。

 正直、「それは言いにこなくていいよ」と思うことも沢山ある。でもその時にも、この魔法の言葉をかけて、そして「気づいてくれてありがとう。」と付け加える。なんでも話したい子は聞いてもらえることが嬉しいのだと思う。

 「そんなときもあるよね。」と、よく使っていると、子どもたちは、小さな事件にあまり動じなくなってくる。必要以上に騒いだり、囃し立てたり、文句を言ったりしなくなる。受け止め上手になる。泣いている友だちや、不機嫌でぷりぷりしている友だちに対しても、「大丈夫、そんなときもあるよね。」とそっと隣に座って、一緒に落ち着くのを待つことができるようになる。

 寛容な心、諦めではなくマルっと受け止めようとする心、「これで大丈夫。」と肯定する心、そんな心を育てていきたい。
 どんな時代のどんな人にも効果のある言葉かどうかはわからないけれど、今の私にとっては、これが魔法の言葉なのである。

 最後に。私にこの言葉を教えてくれたのは、1年目の時の教え子である。私が、何をしても上手くいかず、失敗ばかり続いた日、「こんなんじゃ、先生ダメダメだね。」と呟いてしまったことがあった。そのとき、その子がニコニコ言ってくれたのだ。
「そんなことないよ。そんなときもあるよ。先生!」

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