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UVERガソリン屋さんより死にたい君へ

誕生日おめでとう。
無事に誕生日は迎えられたかな?

出会った時のことを覚えてる?記憶力のいい君は私より鮮明に覚えてるんだろうなあ。

私たちは7年前同じインターネットアイドルを推していた。ファン同士で仲良くしていたというわけでもなく、知っているけど絡んだことはないという存在で。
アイドル(仮)が関西に遊びに来る時、せっかくなら関西フォロワーにまとめて会いたいということで、私と君はほぼ面識がない状態で3人でオフ会したね。
一番年下なのにやけに器量の良い、可愛らしい女の子だというのが君の第一印象だった。

1年も経たずにアイドル(仮)は姿を消した。私たちを繋ぐものはなくなったのに、それでも縁が続くのは驚きだったよ。

当時の私はオフ会きっかけで会うようになった人のことは友達ではなく『フォロワー』と表現していた。フォロワーとはSNSで自分のアカウントをフォローしてくれる人のことである。
会ったことのあるフォロワーで、その中では親しい人。それだけだった。

私はクラスメイト=友達という表現をする教師に眉を顰める人間だった。物事のカテゴリと親密度を一緒にするなんてそんな馬鹿なことはない。
元々友達へのハードルが高いことも相まって、『フォロワー』と呼んでいた。

でも、約束すると君は友達と会うという表現をしてくれた。それも毎回、私が心を許す前から。
私が『フォロワー』と言うのに君が友達と言ってくれるのは気恥ずかしくて、なんだか決まりが悪かった。

君は会っている間必ず私のことを本名で呼んだ。君のことをハンドルネームで呼び続ける私に本名で呼んでよ!と少しむくれつつ言ってくれたね。君から近づいてきてくれたんだ。
あの頃の私ってマトリョーシカみたいに幾重もの壁の中に閉じこもっていたからさ。外面を崩して中に入ってきた君は本当にすごい。

そこから会う頻度は2年に1回から1年に1回に、それからは1年に3回に増えた。家が離れてるにしては上出来だ。君は知れば知るほど面白くて、友達にも家族にもよく君の話をしていた。だから、私の周りはみんな君のことを知っているんだよ。

優しくて賢くて……いやこんな安っぽい言葉じゃ語りきれないんだけど、とにかく私は君のことが好きだった。

ある日、『もう優しさも気力も売り切れた』『寿命だと思ってほしい』と不穏なツイートを残し、朝には全SNSが削除されていた。そこから音信不通だ。唯一残ったLINEでも連絡が取れないってことは、きっと私の考えうる最悪が起きているんだろう。


死の方角を見つめて生きる君を止めたくないと思う。

私には代わってあげられないからね。君の苦しみが真に分かることはない。
だから、まだ死に救いを感じているのなら止めたくないと思ってしまう。その答えを出すまでにとても苦しんだはずなんだ。もがいて考え抜いて出した答えを否定したくない。

度合いは違えど、その重さを知っているから。

でも今回、止めたくないと同じ大きさで止めたいとも思った。君の地元の友達を探して実家の住所を聞き出して、突撃して外に連れ出して気の済むまで抱きしめたい。まあ突撃なんてしたら君は怒りそうだけど。

実際にこんなことが起こらないと自分がどう思うかなんて分からないものだね。まあ人の希死念慮を止めたいなんていうのはエゴだ。私にできることは無事を祈るくらいのものだ。


生きていると連絡があってよかった。泣きすぎて眠れなかった日のことも、10分おきに『問題が発生しました』とグレーアウトしたアイコンを見て泣いた日のことも許してやろう。
生きてたら全部チャラ!よかった〜〜!
よかった、本当に。

神戸にも自室にも君との思い出がありすぎる。
教えてもらってお気に入りになった化粧品、一緒に行った遊園地のカチューチャ、褒めてくれた服……これらが嫌な記憶にならなくてよかった。
私が死ぬまで私の中の君は生き続けるんだからね、やめてよねそういうこと。

SNSには大好きなやり取りも一緒に撮った写真もたくさんあった。SNSが消えて、やりとりしたDMもリプも全部消えて、メンションされて引用したストーリーはもろとも見れなくなって、夢オチのようで怖かった。私だけが幸せな幻を見てたのかと思った。

ゴルゴンゾーラ入りの餃子が臭すぎて同時に咽せた日のことも、ヒールが街中で折れて接着剤で直そうとしたら手と靴を接着してうずくまったまま過呼吸になるほど笑った時のことも私一人の記憶にしないでほしい。

もし予定通り来年フランスでワーホリするならさ、今度はフランスで会おう。お腹がはち切れるくらいパンとケーキを食べたい。ルーブル美術館にも行こう。笑っちゃうくらいベタなフランス旅行に付き合ってよ。その時はスラングをたくさん教えてもらって、仏製ルー大柴になって日本に帰るんだ。



生きていてよかった。でも今の君は生きているんじゃなくて死んでいないだけなんだ。
命があればなんでもいい。でも、死んでないだけじゃなくて、いつか君の意志で生きる日がくるといいな。

君が完璧を諦めない限りあの日はまた繰り返すだろうから。

まあ、何かあればいつでも言ってね。
ガス欠になる前に、エンストする前に連絡くれたらいつでもガソリン持ってくから。
大丈夫、ガス欠の君に任せると撒き散らしかねないから給油までして帰るよ。笑

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