朝の葛藤
「んー、横断歩道のとこまでかなぁ」
朝7時。
小学校に行く時間になって「どこまでついてきてくれる?」と不安げな表情を見せる息子に、そう答えた。小学一年生の息子は朝、登校班に合流して集団登校で学校へと向かう。
そんな中でここ最近、毎朝少しだけ僕も登校班と一緒に歩いている。理由は、息子が小学校へ行きたくないとグズるから。多少でも付いていくことで息子の気が収まって小学校に行ってくれるなら、そんなのお安い御用だ。
朝、登校班に保護者が同行する姿は、実は珍しくない。
周りを見渡すと、大体どの班も一人くらいは大人が付き添って歩いている。
ただ、特に決まったルールはないのだが、登校班に保護者が同行していくのは「ここまで」という境界のようなものがある。それは小学校へ行く時に渡る大きな国道。大体そこにある横断歩道で、保護者は子ども達と別れる。
息子の登校班は、集合場所からその地点まで歩いて3分くらい。大した距離でもないし、大した時間もかからないので、付いて行ってもさほど手間はかからない。
「行った後も、ずっと見ててくれる?」
横断歩道の信号待ちの時に、息子がぽつりと言う。
「うん、見てるから。手を振ってあげる」
かぶっている通学用の赤白帽の上からポンと手を置き答えた。すると息子は無言で頷き、こちらに向かって小さく手を振る。「バイバイ」と「頑張る」の意味だと理解した。
国道を行き交う車が止まり、信号が青に変わる。
登校班がぞろぞろと動き出した。
「いってらっしゃい」
声をかけて子どもたちを送り出す。
横断歩道を渡りながら、早速振り返る息子。こちらに向かって小さくバイバイと手を振る。
僕も小さく頷いてバイバイと手を振る。
少し進んでは、振り返って手を振る。
それにこちらも応える。
また少し進んでは、振り返って手を振る。
また、こちらも手を振る。
振り返る頻度の高さに思わず笑いそうになる。
ただ、息子の顔は真剣そのもの。
だから茶化すことはせずに見守る。
進むに連れて、少しずつ息子の背中が小さくなっていく。
…甘いかなぁ。
ここ最近の自分自身に思うことだ。
「親として、子どもに対して甘すぎやしないか」と。
自分が小学生の時、親はこんなことしてなかったもんなぁ。あんまり過干渉なのも考えものだ。
そんな風に冷静に考えている自分がいる。
ただ一方で「これで小学校に行ってくれるなら良いじゃないか。まずはそこが大切だろう」と主張する、もう一人の自分もいる。
日々考えているが、なかなか答えは出ない。まだしばらくは出そうにもない。
視線の奥の方で小さくなった息子が手を振った。こちらも最後に大きく手を振る。その後、登校班は角を曲がり見えなくなった。目の前の国道では大小さまざまな車が行き交っている。
ふう、と息を吐く。
踵を返していつものように家へと戻った。
(note更新166日目)
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