親子3世代で墓参り
「明日、都城に墓参り行こうと思う。一緒に行く?」
そこまで文を書いた後に、やっぱり「一緒に行く?」の部分を消してメールを送った。父親に連絡したのは昨日のことだ。
最後の一文を消したのは、最近の父親の体調がよく分かっていなかったからだ。
末期の前立腺がんと診断されて一年近く経つ。時期によっては、車での遠出を嫌がるくらい体調が良くない時もあった。
だから、今回のメールはあくまでも「報告」という形にした。
もし父親の体調が悪ければ返信は「ありがとう。よろしく」だろうし、体調が良ければ「一緒に行く」になるだろう。
すると、程なくして父親から返信があった。
「暇だから、俺も行こうかな」
どうやら、体調は悪くないらしい。少し安心した。
とはいえ、父親が住んでいる県北の日向市からお墓のある都城市までは、高速を使っても2時間はかかる。往復4時間の車旅は、前立腺がんを患っていなくとも普通に疲れる。
父親と話をすると、僕が住んでいる宮崎市までは行くのでそこから車で乗せて欲しいとのことだった。「どうせなら日向まで迎えに行って往復するよ」と提案したが、断られた。
「まだ元気だから大丈夫」
そっか。そう言うのなら、そうしよう。
そして翌日。
朝9時半に待ち合わせをしていたが、9時10分には「着いたぞ」と連絡があった。
「早いな、今向かってるから待っといて」
急ぎ待ち合わせ場所に着くと、父親が僕の車に乗り込んだ。
「ごめん、頼むね」
そう言いながら後部座席でシートベルトを締める。実は助手席には、連れてきていた6歳の息子が座っていた。
「久しぶり。元気か?」
父親は息子に声をかける。
「うん、げんき」
息子は言葉少なに答えるが、別に機嫌が悪いわけではない。人見知りで照れ屋なだけだ。
「じゃあ、行きまーす」
アクセルを踏んで出発した。
車の中では、父親のここ最近の体調についての話題が中心だった。
「最近は元気だぞ。一昨日も釣りに行ってきた」
そう話す父親の肌は適度に日焼けしていた。
健康そうでなにより。とてもがんを患っているようには思えない。
お墓に着くと、15日ということもあってか、いつもより人が多かった。息子と父親が一緒に線香に火をつけている。この姿を祖父が見たら、喜ぶだろうなぁ。そんなことを考えながらお墓の前で手を合わせる。
「父さんを、できるだけ助けてあげてください。お願いします」
祈るしかなかった。
これから先、きっと体調が悪くなったりもするだろう。そんな時は、何らか助けてあげてほしい。
祖父からすれば父親は息子なので「なんとかしてくれるんじゃないか」という甘えの気持ちもある。
もしかしたら、これを頼みたくて僕は今日ここまで来たのかもしれない。
「午後から雨が降るらしいから、急いで帰らなきゃな」
墓参りを終えて車に乗り込みながら父親が言う。
「昼飯、一緒に食べる?」
聞いてみたが「コロナが怖いから家に帰って食べる」と断られた。
「なんだ。まだ、ちゃんと生きようとしてんじゃん」
そう言うと「当たり前よ!」と父親は笑った。
こんな会話ができてるうちは、まだ大丈夫だな。安心しながら家路を急いだ。
(note更新253日目)
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