見た目だけで勝負してハズした話
うーん…。
色とりどりのお菓子が並ぶショーケースを前に、一人悩んでいた。
今日はホワイトデー。
百貨店の地下にあるお菓子売り場は、イベント用の商品で溢れていた。
ふと、周りを見渡せばサラリーマンが数多くいる。会社用か、家族用か、みんなホワイトデーの商品を探しているのだろう。
そのフロアには、和も洋も色んなお菓子屋さんが店舗が軒を連ねていた。これだけ種類が豊富なら、来たお客さんは何かしら良さそうな物が見つけられそうだ。
ただ、それだけお菓子が並んでいるのにも関わらず、自分にとってはピンとくるものがない。
…なんだかなぁ。
そもそも、お菓子なのか。
イベント用に量産されたクッキーやチョコ、和菓子で良いのか。
そんなことを思いながらも、周りのサラリーマン達が特段悩まずにお菓子を選んで買い、去っていく姿を見ると気持ちが焦る。
んー…じゃあ、コレだ。
目ぼしい和菓子を見つけて買う決心をした。
お店の人に声をかける。
「あ、その商品は品切れになっております」
あ…。じゃあ、コレで!
「…大変申し訳ありません。そちらも…」
くそ!全然ダメだ。
さっきの決心、いったんキャンセル。
散々歩き回った結果、やっぱりここじゃない気がした。
もう一軒行くか。
百貨店を出て駐車場へ向かう。
歩いている途中で、ふと思った。
たしか、この辺にフルーツ屋さんがあったな。
記憶を辿って裏路地へ。
するとあった。老舗のフルーツ屋さん。
あ!コレかも。
お菓子用の予算をフルーツに全額ぶっこんだら、旬の美味しい物が手に入るのでは。
なんとなく閃いた気がしてお店へ入る。
店内で最初に目に飛び込んできたのは種類豊富に取り揃えられたイチゴ。
一粒が大人のコブシくらいある大きな実のものや、小粒だが色が真っ赤で美味しそうなものなど様々。
その中で一番ピンときたもの。
それは白いイチゴだった。
色は綺麗に真っ白。存在は知っていたが、今まで自分も食べたことはない。
コレだ!コレにしよう。
お菓子用の予算をややオーバーするが、そこは目をつむることにした。
購入して、帰宅。
ホワイトデーとして奥さんに白いイチゴを渡した。
「えー!珍しい!食べたことない。ありがとう!」
反応、良し。
ストウブ鍋の時とは大違いだ。
良かった。ホッと一安心。
「ホワイトデーだから白いイチゴってこと?」
…ん?…え?…あ!そう!
適当に話を合わせてみたものの、そこまで全然考えが及んでなかったわ。ありがとう、深読み。
結果オーライ。
そんなやりとりを交わしながら、いざイチゴの実食となった。自分や息子にも分けたいと、小皿にそれぞれの分のイチゴが載せられている。
でも、一番最初食べてもらうのはやっぱり奥さんだ。
奥さんから一粒食べてもらった。
「甘ーい!おいしーい!」
こんな反応がくると思っていたのだが違った。
「…ん?」
イチゴを一口かじったあと、なぜだか首を傾げている。
ん?
その姿をみて、コチラも首を傾げた。
次に6歳の息子が一口食べてみた。
「ちょっとおいしい」
ん?
ちょっとおいしい?
ちょっと待って。自分も一粒食べてみた。
そこで気付いた。
…あ、普通や。
このイチゴ、普通の味や。
とびきり甘くもなく、かといってマズいわけでもなく。
ホントに普通だった。
食べたことのないものを贈るリスク。
それを完全に失念していた。
あーやっちまった。
「あんまり美味しくなかったね、ごめん」
行き当たりばったりのお礼の品について謝った。
すると、奥さんは特に怒ることもなく言った。
「食べたことのないものが食べられたから良かったよ。ありがとう」
…セーフ!危ねぇ!
来年からは、ある程度ちゃんとヒアリングして一緒に買いに行くことにしよう。
そう思った。
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