日本の暮らしと文化を語る為に必読の五冊 その1 陰翳礼讃
この島国で暮らしてきた
私達が持っている、特有の文化
美意識とはなんだろう。
西洋が先駆けて発展させてきた
哲学から派生した論理的思考
を優先する社会に
近代のゆき詰まりがみえはじめ
その解決策として
特に美意識の重要性が叫ばれる
時代になりました。
その中で
情緒や感覚が先行される
東洋ひいては日本的な
価値観をいかに感じられるか、また
言語化できるかが求められるように
なってきたと感じます。
日本の美と
一言でいっても多種多彩の
の感覚があります。
縄文の感覚、現代の漫画やアニメ
通ずる北斎の浮世絵や
お茶や花などの芸、侘寂、禅などなどその根底にあるものは
歴史の積み重ねの中で
培ってきたものでした。
その中でも
自国の美意識や文化を語る際に
定番かつ必読の
5冊を紹介して
考察していきたいと思います。
一冊目
陰翳礼讃 谷崎潤一郎
日本のみならず、
海外のクリエイターやアーティスト
などにも訳本が人気の
世界的な随筆評論集である。
古刹を訪ねた際に体験する
薄暗く刺す幽かな光の陰翳に
闇が堆積した漆器に輝く蒔絵。
唐紙や和紙が持っている
柔らかく、ふっくら光を吸い取る肌理。
日本は闇の文化だという。
ツルツルのタイルや
ピカピカ光る銀の器を
眩い光で照らすのが
西洋の美であるならば
砂壁の僅かな濃淡が
持つほのぐらさ
錫製の黒ずんだ
古色を帯びた
経年による幾分の不潔を
東洋の「雅致」として
その対比を論じている。
羊羹の下りでは夏目漱石の
芸術論を綴った小説でもある
「草枕」を引き合いに出してるのは
それに強く影響を受けた事が推測できる。
草枕では主に詩歌を元にして
東西の芸術観を論じられており
モノの描写では、
唐物の硯や青磁についての描写が秀逸だが
本書ではそれを本歌取りした形で
漆の蓄積した闇を讃える。
氏は巻末において
現実世界ではもう失われつつある
陰翳をせめて文学上に
呼び返してみたいと綴っており
その試みは同時期に執筆された、
「苅蘆」におけるお遊さんの
所作の描写などに現れている。
この谷崎潤一郎の日本の古典なるモノに
対する意識への移行には
震災を機に関東から関西に
身を移した事により
古代から続く機内の文化的厚みに
触れた事が多くの影響を与えた事が
指摘される。
事実、本書の2年後から
通称『谷崎源氏』と呼ばれる
終生に渡って三回も取り組むことなる
源氏物語の訳本の執筆を始めている。
現代を生きる私達は
この陰翳礼讃の暮らしから
程遠くなってしまったが、
大切なのは、何故その様な感覚が
この列島で生まれたのかという事だ。
環境から建築が生まれ
建築から空間が生まれ
空間からモノが生まれ
モノから生活が生まれくる
事を考えなければならない。
そしてその建築構造というのは
必然的に湿度や風土等という
ヴァナキュラー的なモノに
回帰してくる事になる。
この陰翳礼讃の暮らしが
なぜ、培われてきたのかというのは
またいずれゆっくり筆を獲りたい。
日本が持っていた空間やそこから生まれた
美意識を再確認する為に
必読の一冊である。
天然の漆が輝く
陰翳礼讃時代の漆器 揃えています。
誠に有難うございます。 漆や器と暮らしの情報発信に使わせて頂きたいと思います。