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日本経済を分析するためのノート(2)

「日本経済の活性化のためには労働生産性の高いIT産業を興隆させればよい」といったたぐいの議論を検討するために、まず経済学でいう労働生産性という概念についてみておくことにします。
この労働生産性とは付加価値の労働生産性ということです。言い換えれば1時間の労働でどれだけの物を作ったりサービスを提供できるかということ(これを以下、便宜的に「普通の意味での労働生産性」と言うことにします)ではない、ということです。
大雑把に言って、売上額から原材料費を引いた残りが付加価値です。これをその売上を達成するのに要した労働時間で割ったものが労働生産性です。
ですから例えば、技術改善を実現して、より短時間で同じだけの物やサービスを生産できるようなった(普通の意味での労働生産性の向上)としても、価格が低下してしまえば、労働生産性は向上しなかったり、逆に低下してしまうこともあります。
また、このような算出方法であるため労働密度の問題は考慮されません。そのため好景気のときには労働生産性は上昇し、不景気のときには下降するという性格を持つことになります。
普通の意味での労働生産性であれば事前に把握することが可能です。しかし付加価値の労働生産性は売ってみなければわからない、つまり結果的にしかわからないものなのです。
以上、抽象的な一般論を述べてきましたが、アメリカのIT産業で高い労働生産性が実現されているということをもって、日本でもIT産業を興隆させれば社会全体の労働生産性が向上するというのは、こうしたことを考慮に入れていない議論だということを、後に具体的なかたちで示していきたいと思います。

つづく

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