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ゴルゴとの時間

急激に気温が下がり、一気に秋から冬へと駆け抜けていってしまいそうな日々。
こんな時期にはゆっくりとお風呂に入り、体を温めたいところです。

僕は一応スポーツジムに通っており、ほぼ毎日のようにジムに顔を出しておりますが、実態は完全にお風呂会員。要するにジムに行っても運動はせずにお風呂だけ入るというスタイルに落ち着いている。
自分の部屋ではシャワーばかりで簡単に済ませ、湯船につかるのはスポーツジムでという風に割り切っており、ジムでのお風呂は僕の暮らしの中ですでに「日常」と化している状況である。

そんなお風呂会員の僕の楽しみは、やはりサウナ。サウナがあるからスポーツジムの会費を払い続けているというのが実態である。

ここ数年のサウナブームで、「ととのう」なんていう言葉でサウナの気持ちよさがあらわされているが、まさに「ととのう」。
85度以上のサウナの中でたっぷりと汗をかき、熱くなった体でさっと体の汗を流して水風呂につかる。
この水風呂の気持ちよさを味わうために生きているといっても過言ではない。
ジムに行けばサウナと水風呂を3セットはこなすのが僕の日課であり、そうやって日々の疲れをいやしているのだ。

さてそのジムのサウナであるが、当然ほかの会員たちも利用することとなり、ジムに行く時間帯が大体固定化してくると、そこで顔を合わせるメンバーも同じように固定化してくることになる。

数人の顔見知り(名前なんて知らいし、おしゃべりもしないけど、毎回のようにサウナで会う人たち)ができてきたわけであるが、その中に彼、そうゴルゴがいるのである。

ゴルゴは非常に短めのスポーツ刈りのような髪型をしており、苦み走った昭和の二枚目といった容貌で、その体は僕とは違ってジム通いが長く引き締まった筋肉に覆われている。
彼はいつもサウナのドアを開けて入ってくるときに、室内にさっと視線を這わせ、危険な敵がいないかどうかを瞬時に判断し、そしてそのあとは空いているスペースへと視線をぶらさずに進んでそこに腰を下ろす。

もちろん彼が座るのはひな壇状になった座席の必ず二段目で、「俺の後ろに立つな」というあの有名なセリフを実践しているのだ。(サウナは二段目のほうが高い位置のため温度が高く、一段目よりもずっと汗をかくことができる)

何しろ眼光が鋭く、サウナに入ってきたときのあの周りを確認する視線はまるで野獣のようであり、僕のような小心者はその場で体がすくんで背筋が思わず伸びてしまうほどだ。

サウナの中では基本的には皆無言であるが、彼は静かに目を閉じて背筋を伸ばして腕組みをし、微動だにしない。僕などは12分計の時計の針を何度も見て(ああ、あと三分がんばろう)などと考えながら過ごしているのに、彼は目をつむったまま微動だにしないのだ。

彼が目を開くときは、席を立ってサウナを出るときであり、それは彼が入ってから8分がきっかりすぎたタイミングであり、彼は目を閉じていてもその8分を心の中でしっかりと測り、寸々の狂いもなくそのタイミングでサウナを出ていくのである。

さすが暗殺者。デューク東郷はサウナの中でもきっちり仕事をする男なのである。
サウナを出ていく背中を見ながら、ああ、今日も殺されなくてよかったと毎回胸をなでおろす僕なのであった。

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