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商店街の悪魔


 いや、つーかマジで洒落にならん。いやマジで。

 空っぽのテーブル席。
 今日も客が来ない。常連さんすら全く姿を現さない。
 俺はそばの新聞に目を落とした。

『バナナキラー再び。これで10人目』

 こいつだ。
 こいつのせいだ。この有野町わくわく商店街にのみ出現する殺人鬼、バナナキラー。バナナで人を殺す異常者だ。

 腹立つことに、こいつはこの街にしか姿を現さず、おかげでこの商店街はロックダウン状態。窓から外を覗いても、通りには、誰もいない。
 斜向かいの藤沢理髪店も、ここ2ヶ月客入りを見ていない。玄関のサインポールが虚しく廻っている。


 ……いや、人の心配をしている場合じゃない。このままじゃ俺の店も潰れる。妻は、子供はどうなる?店が無くなれば、俺に何が残る?

 俺は思い出す。
 妻と娘の笑っている顔を。

 それは、守るべきもの。

 俺は決意する。

 俺は調理場に行き、麺棒を手に取った。本場イタリアで買った最高級の麺棒。俺は少し振って、その重さを体に馴染ませる。


 覚悟を決め、ついに俺は店を出た。街は冷たく、張り詰めた空気を肌で感じる。俺は空元気を出す。うるせえ。うぜえ。どこからでもかかってこい。

 すると、その時だった。

 背後からカラン、と鈴の音がした。俺は慌てて身を翻し、麺棒を振りかぶったーーー。

「やめろ。私だ。」

 俺の腕は止まる。

 そこにいたのは、改造バリカンを持った藤沢だった。

「奴をぶち殺すのは私だ」

 フッ…。俺は笑う。
 するとその時。

「何を言うか。ワシに任せえ」
「俺に決まっている」
「お仕置きが必要よね」

 そこには、バズソーを掲げた老人、ダイヤモンドサックをはめた宝石商、六法全書を振り回す女…。

 他にもぞろぞろと店から人が出て来た。広場には、いつのまにか商店街の全オーナーが集結していた。全員の目に宿る覚悟…!

 誰かが叫んだ。
「有野町わくわく商店街の掟は!」


「「「豪胆に!豪快に!慈悲もなし!!」」」


 俺たちは一斉にそう叫ぶと、我先にと街を駆け出した!



【続く】


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