両の手を厚く重ねて本に置く 私の夏はかがやく欅(歌集「樹雨降る」/川本千栄)
「樹雨降る」は川本千栄の第三歌集。 46歳から51歳までの歌で編まれている。
樹雨は きさめと読み、枝や葉についた霧が水滴となって地面に落ちること。またその水滴のこと。
うえから ふってくるもの。
この生を人に問われて肯(うべな)えずベランダの鉢は霜に覆われ
自らが老いゆくことをうべなえず泰山木の花の厚さは
肯(うべな)おうと。
自分が生きてきたことを / 今、生きていることを / これから生きていくことを、年をとっていくことを 何とかして「肯(うべな)おうとしている」歌集だと思った。
いいことがありますように全身に広がるヘルペス消えますように
いいことがありますように。 そんな、ささやかなお祈りが「全身に」から一気に反転する。
全身に広がるヘルペス消えますように。
他にひかれた歌を以下にあげる。
ウルトラマンは着ぐるみなんだと夫は子に告げてしまえりわが病中に
両の手を厚く重ねて本に置く 私の夏はかがやく欅
まばたきの回数少なき生徒なれば二十年経ても名前忘れず
サンタはママかと語気荒く聞く子のおりて未だわれには恩寵のごと
だまし舟二人の人が好きならば帆は軸先に軸先は帆に
出来ていたことが出来ない フィギュアの選手が氷に手をついている
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