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バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫:(ツイ難ワールド編)

これまでのあらすじ

 著作権侵害を回避するためにサイボーグ猫ミッキーと過去改変を行ってしまった俺は、銀河パトロール超エリート隊から逃れるために、サイボーグ猫ミッキーが残していった机の引き出しの中のタイムマシーンで逃走した。
 
 すると、そこはツイ難王ゆきひろが支配する『無知』のパラレルワールドだった。安物のバーボンと煙草をこよなく愛するハードボイルド作家の俺は、短編小説すら読めないツイ難ワールドでは、作家が成り立たないことが分かり愕然とする。

プロローグ

 そこに突如時空間を捻じ曲げて現れたのは、未来に帰って記憶を消されたはずの、サイボーグ猫ミッキーだった。ミッキーの過去に遡って、俺を助けるミッションは、デリートされてしまっていたが、俺の個人情報だけは記録されていた。銀河パトロールは俺を追跡するためには、ミッキーが持っている俺の個人情報が必要だったからだ。

 未来の世界でリセットされて、ミッキーに与えられていた新しいミッションは、銀河パトロールの超エリート隊ミッキーとして、俺を過去改変法違反で逮捕することだった。同じボディービルダー型サイボーグなのに異なるミッション。どこかで聞いたような話だった。

 俺の目の前に立つミッキーは、かつての相棒ではない。奴の表情には、俺を捕えるための冷たい決意が刻まれていた。しかし、その中にも、かすかな痛みが見え隠れしていた。
 
『ミッキーか?』俺は、バーボンを一口飲みながら静かに言った。
 
 ミッキーは言葉を返さなかった。奴の目は俺を貫き、そのまま俺の心を読み取っていた。
 
『これは、お前が選んだ道じゃないんだろう。お前は未来を守るために戦っているんだな?』俺は、煙草を口につけながらミッキーに問いかけた。
 
 ミッキーの表情に一瞬の変化が現れた。しかし、すぐに奴は冷静さを取り戻し、俺を睨みつけた。
 
『ボクのミッションは、のび太キミを逮捕することだ。それ以上でもそれ以下でもない。』ミッキーの声は、確固たる意志に満ちていた。
 
 俺はミッキーを見つめ、深い息をついた。『そうか、それならば、お前のミッションが遂行できるように、俺はここで立ち止まる。ただし、お前が俺を捕える前に、一つだけ頼みがある。』
 
 ミッキーの目が俺を疑わしげに見つめた。『何だ?』
 
 俺はゆっくりとバーボンを置き、手に持った煙草を一瞬見つめた。『ツイ難ワールドから逃げ出す手段がある。それは、リセットさせる前のお前から、俺がもらったタイムマシーンだ。これを使えば、俺はこの世界を出て、違う時代に行くことができる。そして、お前が俺を追い詰めることもなく、お前もこの悪夢のツイ難ワールドから逃げ出すことができる。』
 
 ミッキーの目が俺の脇にあるタイムマシーンを見つめて冷めた表情で言った。『ツイ難ワールドがもうすぐ消滅することは、もう確定しているんだ。だって、奴らはbotに『スマホに充電』て書いておかなかったんだ。それで全員充電することを忘れているから、もうすぐ全員のスマホの電源が切れて、死ぬまで『めし、みず、トイレ。忘れてしまった…でも、これが最後のツイート。ありがとう、新東京。はい論破。』って言いながら全滅するんだ。
 
『そうか。やぱりツイ廃は、全滅するんだな。で、ミッキー、お前のミッションは俺を逮捕することだったんだよな?』
 
 サイボーグ猫の青い瞳は無機質に輝き、静かにうなずく。しかし、その視線には一筋の迷いが見えた。それは、以前のミッキーの深層心理か、それとも新たなプログラムに反逆する何かだったのだろうか。
 
 ツイ難ワールドに響くゆきひろの遺言が、ふと俺の頭をよぎる。『すべてを忘れてしまった。でもこれは…最後のツイート。ありがとう、新東京。はい論破』。ゆきひろの亡霊は記憶の制約に苦しみながらも、140文字の言葉で新東京の人々に戯言を伝えていた。
 
『ミッキー、お前も何か忘れているんじゃないのか?』
 
 ミッキーの視線が揺らぐ。静かに猫型の頭部を左右に揺らし、何かを思い出そうとしているようだった。その目には、かつての親友としての記憶と、新たなミッションの間で葛藤しているような光景が映し出されていた。
 
『覚えているか? ミッキー、俺たちは先週まで友達だったんだ。』
 
 ミッキーの目に涙はない。だが、その顔には明らかな苦悩が浮かんでいた。そのミッキーの表情が、俺に一筋の希望を灯す。
 
『ミッキー、お前に託された未来は何だ?』俺は煙草をもみ消しながらミッキーに話しかけた。
 
 だが、ミッキーは何も答えず、ただ静かに俺を見つめていた。その瞳に映るのは、過去の記憶、未来の希望、そして現在の現実。サイボーグ猫の脳裏には複雑なプログラムが巡り、微量の電流が脳内を駆け巡っていた。
 
『ミッキー、お前と俺は過去に何をしたんだ?』
 
 その質問に対して、ミッキーはまたしても無言だった。しかし、その目にはわずかな疑問が浮かんでいた。それは、深層心理にある真実を追い求めるような疑問だった。
 
 この瞬間、俺はミッキーの中にある何かを操る力があることに気づく。それは、彼の中に秘められた友情と共感、そして義務感を唤起する力だった。
 
『ミッキー、俺たちは新東京を守るために戦った。それを思い出せ』
 
 サイボーグ猫の眼差しは、再び揺れ動く。彼の中には、既存のプログラムと新たな思考が交錯し、新たな認識を生み出していた。
 
『...新東京...守る...』
 
 ミッキーの言葉は微かだったが、それは確かな声だった。未来から帰還したミッキーが、過去の記憶を取り戻し始めていた。そして、その瞬間、新たな希望がツイ難ワールドに灯された。
 
 俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
 
つづく…


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