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バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫:(タイムトラベル編)

  俺はいつものように、マンハッタンの探偵事務所で、相変わらず安物の煙草を吹かし、バーボンで泥酔しながら、猫型サイバーパンク小説の続編を書いていた。すると、真夜中だというのに、激しくドアをノックする音がした。
 
 ドアを開けると、その先には思想警察の著作権特捜部の連中がずらりと並んでいた。スーツに身を包んだ彼らは、機械的な表情を浮かべて、冷たい視線で俺を見下ろしていた。
 
『我々は著作権特捜部です。家宅捜査令状を持っています。』先頭の男が、手に持っていた紙を突き出した。
 
 その令状を目にした瞬間、心臓が凍りついた。『著作権侵害容疑だと? 俺が何をしたというのだ?』 だが、その疑問が頭を巡る前に、俺の視線は事務所の中、机の引き出しに向かった。
 
 そこには未来のサイボーグ猫ミッキーが残していった、ある“道具”が仕込んであった。それは、世界の科学者が夢見るタイムトラベルマシンだった。
 
 俺は特捜部の連中の視線を盗みながら、その引き出しに手を伸ばした。そして、タイムトラベルマシンを握りしめ、引き出しの奥に隠していた古いタイプライターに手をかけた。
 
『ここからが、本当の物語だ…』とつぶやきながら、タイプライターのキーを叩き始めた。
 
 激しいノック音と共に、部屋の空気が一変した。特捜部の連中が急に動き出したとき、俺の指は最後のキーを叩いた。そして、タイムトラベルマシンのスイッチを入れた。
 
 一瞬、目の前が真っ白になった。そして、次の瞬間、俺は過去の世界にいた。
 
 猫型ロボットが書かれる前の世界。そこで俺は、未来のサイボーグ猫ミッキーの話を書き上げる。過去を改変し、現在の疑惑を払拭する。それが、このタイムトラベルの目的だ。
 
 今、俺の手には未来と過去が交錯する力がある。これからどんな困難が待ち受けているのかは分からない。だが、一つだけ確かなことは、これから始まる冒険が、俺の人生を一変させることだろうということだ。
 
 俺がタイプライターの前に座った瞬間、時間が止まったような静寂が広がった。未来のサイボーグ猫ミッキーの話、これが全ての始まりで、そして終わりでもある。彼の冒険、彼の戦い、彼の成長。全てを書き上げることで、現在の疑惑から逃れることができる。
 
 タイプライターのキーを叩く音が、静寂の中に響き渡った。たとえ時間が過去に遡っていても、思考は止まらない。ミッキーの話が形になるたびに、現在と未来が交錯する感覚に身が震えた。
 
 しかし、その中にも新たな問題が浮上してきた。『過去に書いた物語は未来にどのような影響を及ぼすのか?  また、過去を変えることによって生じるパラドックスはどう扱うべきなのか?』
 
 その答えを見つけるためには、過去をさらに遡り、物語の根源を探るしかなかった。そして、その過程で、俺は新たな発見をした。
 
 未来のサイボーグ猫ミッキーが残したタイムトラベルマシンには、過去に戻った者が現在に戻るための機能がついていた。つまり、過去に戻って物語を書き上げ、現在に戻ることで、物語の結末を自分自身で見ることができる。
 
 それは一種の自己完結型のタイムトラベルだ。過去に戻って物語を書き、現在に戻ってその結果を確認する。そして、その結果に満足すればそのまま過去に戻って続きを書く。そうして、俺は現在と過去を行き来しながら、物語を書き上げていく。
 
 これが、俺の新たな挑戦だ。陳腐なハードボイルド探偵小説家から、時をかける『作家』へ。『ここで“作家”と書かずに"少女"と書いていたら、筒井康隆の著作権に引っ掛かって拙いが『時をかける作家』なら問題ないだろう』と独り言を言いながら、自分自身の過去と未来を繋ぎ、一つの物語を紡ぎ出す。
 
 そして、未来のサイボーグ猫ミッキーの物語が完成したとき、俺は新たな現在に目覚めるだろう。その現在では、俺は著作権侵害の疑惑から解放され、新たな物語の創造者として認識されるだろう。
 
 時が経つにつれて、過去と現在、現在と未来が交錯する感覚は強まっていった。時々、自分がどの時代にいるのかさえも分からなくなることがあった。しかし、それでも俺はタイプライターのキーを叩き続けた。ミッキーの物語が完成するまで、俺はこの時空を行き来し続ける。
 
 数時間後、未来のサイボーグ猫ミッキーの物語はついに完成した。その瞬間、俺は深い安堵感に包まれた。しかし、その安堵感はすぐに緊張感に変わった。これから現在に戻り、物語の結末を確認する時間が来たのだ。
 
 タイムトラベルマシンを手に取り、現在に戻るためのボタンを押した。すると、俺の周りの景色が一瞬で変わった。目の前に広がっていたのは、過去の世界ではなく、俺のマンハッタンの探偵事務所だった。
 
 そして、俺の目の前には思想警察の著作権特捜部の連中が立っていた。しかし、彼らの表情は以前とは全く違っていた。彼らの目には敬意と驚きが浮かんでいた。
 
『あなたの新作、"サイボーグ猫ミッキーの冒険"、我々も読ませてもらいました。素晴らしい作品です。著作権侵害の疑惑については全てクリアになりました。これからも、あなたのような才能を世に送り出してください。』
 
 そして、彼らは一礼して事務所を出ていった。俺は深呼吸をして、事務所の中を見渡した。そこには、バーボンと煙草の匂いが混ざり合った、俺だけの空間が広がっていた。
 
 これからも、俺はここで物語を紡いでいく。未来のサイボーグ猫ミッキーの物語を超える物語を。そして、それがまた新たな未来を切り開くだろう。
 
 俺は猫型ロボットの物語を書く作家から、時間を越えた物語を紡ぐ作家へと成長した。この部屋、このタイプライター、そしてバーボンと煙草。それら全てが俺の物語作りの一部となっていく。
 
 ふと、机の引き出しを開けると、タイムトラベルマシンが静かに輝いていた。その光は、未来への無限の可能性を予感させるものだった。そして、その光を見つめながら、未来のサイボーグ猫ミッキーの言葉が蘇った。
 
『時間は一直線ではない。それは川のように流れ、海のように広がり、宇宙のように無限だ。だから、君の物語も無限だ。』
 
 そう、物語は無限だ。そして、その無限の中で、俺は新たな物語を紡ぎ出すだろう。未来への挑戦、過去への敬意、現在への誓い。それら全てが、俺の物語を支え、豊かにする。
 
 そう思いながら、再びタイプライターのキーを叩き始めた。今度の物語は何にしようか。ミッキーの次の冒険か、それとも全く新たなキャラクターを生み出すべきか。
 
 しかし、その答えはすぐには出なかった。だから、とりあえずはタイプライターのキーを叩き続けた。キーを叩く音は、静寂の中に響き渡り、物語の新たな幕開けを告げていた。
 
 だが、過去改変が銀河法では重罪だということは、銀河パトロール超エリート隊員物語を読めば明らかだ。そう、俺の物語はまだ、つづく...

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