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AIの軍事利用について(2)

 AI技術はコンピュータの歴史とともに戦争や軍事作戦の支援に用いられ、その発展の過程で様々な形で軍事利用が展開されてきました。

 第二次世界大戦中、イギリスの数学者アラン・チューリングは『ボンべ(Bombe)』という電気機械的デバイスを設計し、これを用いて敵国の暗号『エニグマ』を解読し、戦局を有利に進める貴重な情報を提供しました。一方、彼が提案した『チューリングマシン』は物理的なマシンではなく、計算の理論上のモデルであり、この概念は現代のデジタルコンピュータの理論的基盤となっています。
 
 本稿では、そのような軍事利用の詳細を紐解くことで、AI技術の歴史的背景と軍事利用の現状を理解するための情報を提供することで、読者が、コンピュータの本質に対する理解が深まることを期待しています。 

  チューリングに興味を持たれた読者には、アンドルー・ホッジス著の『エニグマ アラン・チューリング伝』(原題:Alan Turing :The enigma)や、映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(原題:The Imitation Game)をお勧めします。これらの作品を通じて、コンピュータの本質についてより深く理解できるでしょう。
 
 これらの伝記や映画に描かれるチューリングマシンの活躍により、連合国は形勢を逆転させ、枢軸国のナチス・ドイツを敗戦に追い込みました。戦後の時代に入ると、世界中でコンピュータの重要性が認識され、コンピュータ技術が発展し、各国は高度な軍事用途の研究に取り組むようになりました。
 
 チューリングマシンと同時期にアメリカで開発されたENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)は、弾道計算や軍事物資のロジスティクス最適化に力を発揮しました。また、マンハッタン計画の原子爆弾開発でも重要な役割を果たしました。しかし、当時のコンピュータは『Giant Brain』と形容されるものの、統計や確率の高速計算機の域を出ていませんでした。
 
 初期のAI技術として注目すべき例は、冷戦時代のアメリカとソビエト連邦が相互確証破壊(MAD)戦略に基づいて、核兵器発射の検知と自動報復システムです。我々が日常的に使っているインターネットも、元々は軍事ネットワークですARPANET(Advanced Research Projects Agency NETwork)がベースであり、コンピュータやAIの発展と戦争は密接な関係にあると言えます。
 
 更に、AI技術が進化するにつれて、高度な軍事用途が実現されました。現代では、無人航空機(UAV)や無人地上車両(UGV)などの自律ロボット技術が軍事作戦で利用されています。これらの技術は、危険な任務を人間の兵士に代わって行い、リスクを軽減できます。
 
 また、AIは軍事情報収集や解析にも広く活用されています。衛星画像や通信データの解析により、敵の動向や戦術を把握するために利用されています。その結果、軍事指導者は迅速かつ正確な意思決定を行うことが可能となりました。
 
 しかし、AI技術は戦争の回避や被害の最小化に寄与する最適化システムとしての側面を持ちながら、同時に倫理的懸念や制御不可能な事態への懸念も抱えています。
 
 自律兵器が誤って市民を攻撃する危険性や、AIによる戦争閾値の低下に伴う紛争の増加など、多くの問題が指摘されています。特に、人間の判断を介さず攻撃を決定するキラーロボットは、国際的な議論を引き起こしています。
 
 これらの技術が悪用され、国際法や戦争ルールが破られる恐れがあるため、適切な規制や管理が求められています。しかし、AI技術の軍事利用はエスカレートすることはあっても、停滞することは現実的にはあり得ません。
 
 核兵器や空母や最新型戦闘機などの目に見える武器は、殺傷能力や破壊力が把握し易く、オーバーキル状態が明確なため、軍縮会議の議題に上がり易い傾向があります。しかし、コンピュータ技術に関しては、軍事技術と民間技術の垣根がほとんどなく、各国や企業、個人が持つ情報戦能力の把握は実質的に困難です。このため、AI技術の軍事利用には慎重な検討が必要です。
 
 更に、AI技術はサイバー戦争の一環としても利用されています。国家間の競争が激化する中で、AIを活用したサイバー攻撃が増加し、攻撃対象は軍事設備のみならず、政府機関、原子力発電所、航空インフラ、道路交通管理システム、金融・証券システムなど、コンピュータが導入されている全てのシステムに対する脅威が高まっています。
 
 サイバー戦争の特徴は、攻撃者が国家や組織に限定されず、ある程度のコンピュータ知識があれば、1人の中学生でもゲーム感覚で非対称戦争を起こすことも可能です。あるいは、AI自体が制御不能となって、偶発核戦争が発生するリスクも決して低いとは言えません。
 
 AIの軍事利用は、過去から現在に至るまで、コンピュータの歴史とともに進化し続けてきました。その一方で、技術の進歩に伴う倫理的な懸念やリスクに対処する必要があります。今後は、AI技術を適切に制御し、安全かつ持続可能な方法で軍事利用を行うための国際的な取り組みが重要となっています。 

つづく…。


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