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バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫:麻雀小説(2)新華強北の四天王

これまでのあらすじ

 22世紀初頭、中国香港自治国『新華強北』。その都市の頂は、かつての華洋混じりの華麗さから遥か遠く、深淵に沈んだ灰色の塔が広がっていた。新華強北はかつて『中国の秋葉原』と称され、電子機器の中心地であった。だが、今は無秩序に領土を広げた台湾の一部となり、荒廃したディストピア世界が広がっていた。

 ここでは、人間に替わり、21世紀末の終末戦争の終了でミッションを失った荒くれ功夫ロボットたちが新中華麻将で闘っていた。中華仮想通貨が賭けられ、電脳牌が飛び交う。新中華麻将ノスタルジックゲームでは、21世紀初頭まで使われていた中華麻将の牌がディールされることもあるが、1から200の数字と簡体字、絵文字の電脳牌が存在し、その組み合わせによって点数が決まる。
 
 あがりの点数は、麻雀卓を制御しているAIの采配によって決められるルールだ。ゲームの基本は、14枚の手牌を何らかの規則性のある配列に揃えることで、最初に手牌に何らかの法則を見出した雀士にAI雀卓が判定した点数相当の、中華仮想通貨が敗者から勝者へと自動的に移動する。
 
 新華強北の裏中華麻将界では、特に注目されている雀士が四人いた。
 
 まず、碧い髪のマチルダTHEYは一度も中華麻将をしたことがないため『無敗の雀士』と呼ばれるツンデレ猫型アンドロイドだった。THEY『ツン』『デレ』と哭くとき、それは通常の『ポン』『チー』の宣言を意味し、『が~ん』『カン』を意味する。THEYのあがるときの宣言、『御無礼、ロンにゃり』『御無礼、ツモにゃり』は、裏中華麻将界では『哭きの碧猫』と呼ばれ、恐れられていた。一度も中華麻将をしたことが無いので実力は解らないが、『微博(中華版ツイッター)』では『無敗の雀士』の噂が何度も『转发(リツイート)』されるごとに、数万もの『賛(いいね!)』『咔嗒声(クリック)』されていた。
 
 次に、胡椒くんTHEYは闇金融のソドムバンク所属で、守銭奴の鈍才大学・梅尾泥作教授によって開発されたイカサマ雀士だ。負けそうになると、雀荘にガソリンを撒き、放火するほど凶暴な極悪ロボットであった。
 
 そして、勝間和代THEYはAIの基礎であるベイズの定理を理解したと自負しており、ベイズ確率で日式麻雀に勝てると信じて疑わない。かつて日本にいた無敗の雀士が、全身義体化され脳には、未完成のイーロン・マスクAIチップを搭載していた。
 
 最後に、ホリエモンTHEYは前科者でありながら、嵩山少林寺のロボット工場で生産された中華人民軍功夫ロボット最強闇雀士として、优酷(中華版YouTube)では無敵の雀士として知られていた。
 
 THEYら四天王の戦いは、新華強北の雀荘で繰り広げられ、その勝敗は地下世界の支配権をも揺るがす。混沌とした新華強北の街角、かつて人間が生きていた証とも言える雀荘で、THEYらの戦いは火ぶたを切って落とされた。
 
『さあ、練習対局始めるにゃ!』碧い髪のマチルダが宣言し、THEY『ツン』『デレ』の声が雀荘の空気を弾ませた。特異な哭き方で知られるTHEYだが、その動きは絶妙で、なぜTHEY『無敗の雀士』と称されるか一目瞭然だった。
 
 胡椒くんはその隣で油断なく牌を弾いていた。THEYの背後には闇金融のソドムバンクの闇が広がっており、THEYが負ければ、その後に待ち受けているのはただの敗北ではない。
 
 勝間和代はその局を冷静に見つめていた。THEYの頭の中では、ベイズ確率に基づく計算が絶えず行われており、次の手を予測していた。
 
 ホリエモンは、前科者の風格を振りまきながら、それでも確かな技術で局面を支配していた。THEYの操るロボットアームは、あらゆる局面で最善の手を打つ。
 
 本ちゃん一局目のマチルダの配牌は[犬] [3] [5] [7] [猫] [13] [狸] [19] [牛] [29] [狐] [37] [41]だった。下家のベイズの勝間が[2]を切ると、マチルダは『デレ』と哭いて[3] [5] [2]の牌を晒して[犬]の牌を捨てた。
 
 ベイズの勝間は『[2] [3] [5]はチーじゃない』とAI雀卓に抗議したが、AI雀卓は勝間に対して『それってあなたの感想ですよね?』と、まるで相手にされなかったので、ムカついて『一つ晒せば自分を晒す』と捨て台詞を吐いた。
 
 対面のホリエモンは、[犬]を哭くべきかどうか少し考えたが、もう少し流れを見ることにして黙って局面を見守った。
 
 上家の胡椒くんは、自摸ってきた[17]の牌を切り、ホリエモンは[犬]を切った。
 
 二巡目の勝間の捨て牌は[11]だった。マチルダの目が再びデレっと緩み『デレ』と哭いて[7] [13] [11]の牌を晒して[猫]の牌を切った。
 
 ベイズの勝間は『[7] [11] [13]は、チーじゃない!』とAI雀卓に抗議したが、AI雀卓はベイズの勝間に向かって『それってあなたの感想ですよね?』と、またしてもまるで相手にされなかったので、『二つ晒せば全てが見える』と捨て台詞を吐いたが、マチルダが新中華麻将のルールが分かってないことを見抜いたと内心で勝ち誇っていた。
 
 マチルダの手牌には[狸] [19] [牛] [29] [狐] [37] [41]が残っていたが、三巡目で[13]を自摸ってきたので、[狸]を切った。胡椒くんは[馬]を切り、勝間が[31]を切ると、マチルダは『デレ』と哭いて[29] [37] [31]の牌を晒して[狐]を切った。ベイズの勝間は、AIチップを搭載していても、どんな牌が何枚このゲームで使われているのかすら把握できない。初めからベイズ確率など無意味だったが、『三つ晒せば地獄が見える』と口惜しみを言った。
 
 四巡目の勝間の捨て牌は[23]だったので、マチルダは当然のごとく『デレ』と哭いて[13] [19] [23]を晒し[牛]を捨てて、[41]の裸単騎になった。胡椒くん、ホリエモン、勝間の三雀士は、『マチルダは数字だけ並べればよいと勘違いしている』と同じことを考えて、自分の手牌に集中していた。
 
 勝間の手牌は[6] [6] [8] [8] [12] [12] [41] [55] [55] [100] [100] [121] [121][41]が入れば七対子(チートイツ)だが、どんな数字や漢字や絵文字が何個入っているかわからない新中華麻将で、[41]がでる確率など計算しようがない。下手をすると、このAI雀卓には[41]が手牌の一枚しか入っていなくて、あがれない可能性もあるのだ。この状態で[133]を自摸切りするのは、癪に障るので、自摸って来た[133]を手牌と入れ替えドヤ顔で『リーチ』を掛けて[41]を切った。

 その瞬間のマチルダの『御無礼、ロンにゃり』の一言に、胡椒くん、ホリエモン、勝間の三雀士は口を揃えて『お前、それチョンボだぞ!』と言ったが、AI雀卓とマチルダは、そうは考えなかった。
 
 AI雀卓の判定は『トリプル役満です』だった。胡椒くんはブチ切れてガソリンに手を掛けていた。ホリエモンは『このAI雀卓壊れてるぜ』と言い、勝間は『なんでこんなバラバラな数字がトリプル役満なのよ!』とAI雀卓に噛みついた。
 
 AI雀卓は『この役の規則性が分かりませんか? マチルダの牌をよく見てください。[2] [3] [5] [7] [11] [13] [17] [19] [23] [29] [31] [37] [41]は、連続素数でトリプル役満です』
 
 一局目にしてベイズの勝間のハコ割れで勝負は終了した。
 
 マチルダは初勝利を祝って、バーボンを飲干し煙草を吹かした。なぜなら、バーボンと煙草が無ければこの小説が成り立たないからだった。
 
付録:なぜ素数が重要なのか?
 
 素数はコンピューターサイエンスやAIにおいて様々な形で使われています。以下にいくつかの例を挙げます。
 
ハッシュ関数:ハッシュ関数は、任意のサイズのデータを固定長の一意の値に変換する機能を提供します。これはデータベースでの高速な検索や、データの完全性検証(チェックサム)などに使われます。一部のハッシュ関数は、良好な分布特性を得るために素数を利用しています。
 
 一般には、古典的な手法、例えばソーティング(データの並べ替え)やハッシュ関数などにおいて、大きな進歩が困難とされてきました。しかし、最近のAIの進歩により、これまで想定されていなかった新たな強力なソートアルゴリズムが発見されるなど、その常識が覆されつつあります。

  素数やそれを使用した古典的な手法を超える新たな進歩が見られていますが、その背後にはAIの力があります。この進歩が科学の様々な分野で新たな発見を生む可能性があります。

 松尾豊教授に抜けているのは、このような視点でのAI研究に対する真摯な取り組みです。客寄せパンダ、御用学者業務や、私利私欲のために、日本のAI研究に多大な悪影響を与えている自覚が足りません。悪影響を与えることが分かっていて、恣意的にやっているのなら、更に悪質だと言えます。
 
乱数生成:コンピュータでは乱数生成の際にしばしば素数が利用されます。素数周期を持つ線形帰還シフトレジスタ(LFSR)は、ハードウェアレベルでの乱数生成に使われることがあります。
 
データ分析と機械学習:素数を使って特徴量エンジニアリングを行うことで、パターンを見つけ出すことがあります。素数の性質は、データに内在する特定の構造を明らかにするのに役立つことがあります。
 
並列処理と分散システム:システムの負荷分散(ロード・バランシング:LB≠BL:ボーイズ・ラブ)に素数が使われることがあります。例えば、複数のサーバーにデータを分散する際、サーバーの数が素数であればデータは均等に分散しやすいです。
 
暗号の基礎:素数は暗号学、特に公開鍵暗号の設計において中心的な役割を果たします。公開鍵暗号では、暗号化と復号(データの暗号化と解読)のための鍵が異なり、暗号化鍵(公開鍵)は公開され、一方で復号鍵(秘密鍵)は秘密に保持されます。
 
 RSA暗号はその最もよく知られた例で、素数の性質がその安全性の根底にあります。RSA暗号では、まず2つの大きな素数をランダムに選び、それらを掛け合わせて1つの複合数を作ります。この複合数が公開鍵の一部となります。
 
 この複合数から元の素数を導き出すことは、現在のところ非常に時間がかかる(効率的なアルゴリズムが存在しない)ため、この複合数を知っていても秘密鍵を推測することは非常に困難です。しかし、元の素数を知っていれば、秘密鍵を計算することが容易です。これが、RSA暗号が公開鍵を公開しても安全である理由です。
 
 したがって、素数が暗号に使われる主な理由は、その素因数分解の困難性に依存しています。素数自体は容易に見つけることができますが、その積から元の素数を導き出すことは、現在の技術では大きな数になると非現実的なほど困難です。この性質は、『計算の困難さ』に依存する暗号の安全性を保証する上で重要な役割を果たします。
 
 以上のように、素数はコンピューターサイエンスやAIの多くの領域で、そのユニークな性質が活用されています。

 つづく…

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