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電子人格:AIが『人格(Personality)』を持つ可能性はあるか?

『人格』の意味が理解できていない読者は少ないとは思いますが、筆者の部下には、法学部出身で『法人格』の意味が理解できなかった人が実在するので、まずは『人格』とは何かから説明します。

 筆者の部下が理解できていなかったのは、法律用語の『人格』と、哲学、心理学、一般会話などで『人格者』のような文脈で使われる『人格』の違いです。筆者は態々『法人格』と言っているので、法学部卒が『法人格』の意味が理解できていないことに気が付くのに、一週間くらい掛かりました。

1.法律用語における『人格』とは
 法律用語における『人格』とは『個人(自然人)』『法人』のように、法的な権利や義務を有する資格や能力を有する『法的主体』指します。

2.自然人の人格(personality)
『自然人の人格』とは、人間の法的な人格のことを指します。我々が普段考える、人としての権利や義務を有する法的主体のことです。

3.法人格(legal personality)
『法人格』とは、法律で認められた団体や組織が持つ『人格』のことです。法人も自然人(人間)と同じように、権利や義務を持つことができます。一番分かり易い例は、法人の債権(権利)や債務(義務)かもしれません。しかし、法人は実際の『人間』ではないため、法律で認められた範囲内でのみ、その権利や義務が適用されます。
 法人は大別すると公益法人、営利法人、非営利法人に分かれます。更に現在の日本の会社法では、営利法人は株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の四種類があり、非営利法人は、NPO(特定非営利活動)法人、一般社団法人、一般財団法人に分かれています。

4.電子人格(electronic personality)
『電子人格』は、AIやロボット技術の進化とともに議論されるようになった比較的新しい概念です。AIやロボットが自律的な意思決定や行動をするようになると、それらが法的な権利や義務を持つべきか、という議論が生じます。
 SF小説としての電子人格の概念は、1940年代から1950年にかけてアイザック・アシモフが『I, Robot』で唱えた『ロボット三原則』が有名です。その後、1966年に出版されたロバート・A・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』や、1968年に出版されたフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』や、1984年に出版されたウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』など、AIの人権について考えさせられる作品は多数あります。特に『ニューロマンサー』は、サイバーパンクSF小説としてこの手のテーマを多くのSF作家が取り上げる切っ掛けとなった、サイバーパンクの金字塔と呼ばれている作品です。

 AIの人格が国際的な政治的テーマとして真剣に議論され始めたのは、2018年に欧州議会でAIの人格に関する議論が行われたことが契機となっています。現行法では、AIや機械に人格や責任を持たせる法律を導入している国は存在しません。議論の中心は、AIや機械に『法人格』のような『電子人格』を与えることにより、『法人』のような法的責任を持たせることや、その責任を、AIを製造した法人や個人に転嫁する方法に関するものです。

 しかし、一部の政治家、哲学者、法学者、コンピュータ技術者の中には、AI自体の責任能力を追求する法整備や、AIに適切な罰則や刑罰を課すことが可能かどうかを研究している者もいます。

 AI自体に責任を持たせて、損害保険などを通じて金銭的な補償を行うことは一つの方法ですが、AIに対して効果的な刑罰を考えることは難しく、現時点では未知の領域です。AIに自我や生存願望のような意識が存在すれば、その意識に逆らう形の刑罰を検討することも可能でしょう。
 
 しかし、AIに自我や意識を持たせることが可能かどうかについては、まだ明確な答えが出ていないのが実情です。一方、シンギュラリティの実現や、AIが自我や意識を持つ可能性に確信を持っている研究者が少なくないのも事実です。この文脈での『AIの人格』『電子人格』『自然人の人格』に近い性質のものです。

 シンギュラリティに関しては、2025年に到達する、2045年に到達する、永遠に到達しないなど様々な説がありますが、そもそもシンギュラリティを定義する以前に、知性、自我、意識と言った哲学的テーマも定義できていないので、まるで議論がかみ合っていない状態です。

 孫正義は2023年6月21日のソフトバンクグループの定時株主総会で『AIは全人類の叡智を総和したレベルの少なくとも1万倍になる』と発言しています。ところが、古代ギリシャ哲学時代から現代にいたるまで『叡智とは何か?』を議論し続けていますが、いまだに叡智の定義自体ができていません。言葉の意味も定義できていないものの総和の1万倍と言われても、何が言いたいのかすら理解不能です。

孫社長が“大泣き”した理由「AIは全人類の叡智を総和したレベルの少なくとも1万倍になる」

BUSINESS NETWORK

特別鼎談「人工知能時代の責任と主体とは?」
2018.06.18
もし、人工知能が事故を起こしたら、誰が責任を取るのでしょうか?これは情報技術が急速に社会に浸透するいま、未だ決着のつかない重要な課題となっています。この現代的問題に挑むべく、哲学、心理学、法学と異なる専門性を持つ3人の研究者が集い、人工知能時代における「責任」と「主体」とは何かが議論されました。

国立研究開発法人科学技術振興機構・社会技術研究開発センター

ロボットは「電子人間」として認められるべき? 150人以上の専門家がEUの提言に反対
2018.05.01 22:00
ロボットやAIがあらゆる場面で普及するにつれて、こういった事故は必ず増えてくるでしょう。その場合の責任がすべて製造元にあるのか、所有主にあるのか、それともロボット自体にあるのか、これら複数の要素が合わさった形になるのか。議論を進める必要があるわけです。特に技術が高度に、自律的になるにつれて一般消費者にとってロボットの仕組みを理解することはどんどんと困難になるでしょう。専門家ですら、人工知能が何らかの判断を下したときにその理由(思考回路)を知ることは困難になります。いわば、ロボットのブラックボックス化ですね。
 
そんななかでロボットが問題を起こしたとき、原因を知ること、誰に責任があるのかを探ること、が難しいことは想像することは容易です。
 
そこでEUが提案したのが電子人間という法的地位でした。もちろんこれは、ロボットに投票や所有権といった権利を与えることを意味しているわけではありません。また、ロボットに「意識」があると認めるわけでもありません。むしろこれは、会社が持つ法人ステータスに似ています。

GIZMODO

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