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エディション・コウジ シモムラ 下村浩司シェフ 「逆境を、刺激的な挑戦に変える」

洗練されたモダンフレンチのレストランとして、13年間にわたり安定した人気を集めてきた「エディション・コウジ シモムラ」。下村浩司シェフは、コロナ禍に直面して、むしろ「新たな挑戦に燃える」と話す。

◆エディション・コウジ シモムラ(東京・六本木一丁目)基本情報
・テーブル30席(個室1室含む)
・ランチコース 6000円〜2万円、ディナーコース1万5000円〜2万6000円
・2007年オープン、2008年度版よりミシュラン2つ星
◆コロナ後の対策
・4月初旬から小規模に料理のテイクアウト・配送に取り組む
・4月中旬からレストラン臨時休業(6月9日再開予定)
・4月21日、ECサイト「Edition at Home」をオープン

――新型コロナがレストラン業界に強い影響を与えはじめたのが3月の下旬。そこから2ヶ月が経とうとしています。

その間、がむしゃらに動きました。とくにゴールデンウィークまでは、脳がショートするのではないかというくらい心身フル回転でこの状況に立ち向かいました。ものすごいテンパっていましたね。

でも、基本的にはとても前向きです。逆境に燃えるタイプですし、新たにチャレンジすることが大好きですから。

――4月21日にECサイトをオープンして、全国に料理を販売する体制を作りました。

私が「この闇を切る抜けるためには新しい手を打たねば」と動きはじめたのは、3月の終わり頃です。4月中旬まではレストランの営業を続けていたのですが、それと並行して4月初旬から少しずつ、フェイスブックやショートメールで告知する形で料理のテイクアウトにも取り組みました。ECサイトを立ち上げるために、ノウハウを集める助走期間のような感覚です。

最初は客観的に、今、どんな料理が求められているのか? どのように販売するのか? 今後どう展開するか?……と、オーナーシェフとして細かな戦略を考えました。でも、実際にはじめてみると、理屈より感情の方がどんどん熱くなって。

なぜなら、これはエディションの支店を新たに作るようなプロジェクトだから。そう覚悟を決めたら、なんともいえないほど胸が高鳴ったのです。普段店をやっていると、時間がなくてなかなか将来の展望を考える余裕がありません。だから、「新たな挑戦」が刺激的で、ワクワクが止まらない。

そして何より、テイクアウトや配送でうちの料理を召し上がってくださったたくさんの方々から、喜びのメッセージをいただいたり、SNSに「こんなに楽しかった」「子供と食べました」などとアップしていただけたのが、本当に嬉しかったですね。脳が高揚しちゃって、毎日寝られなかったくらいです。

まさに、料理人魂に火がついた(笑)! 決してこの感覚を忘れていたわけではない! でも、改めてガツンときました。

――それで、日々最大のエネルギーで動くことができた。

そうです、もちろん冷静さも必要です。有事を乗り越えるためには、決断の質とスピードが大事です。タイミングを逃さず、思いきって、賢く正しくものごとを実行しなくてはならない。

ただ、そのためには、燃えるように熱い心と、とことんポジティブな姿勢が絶対に必要なのです。

レストランに求められる、「今まで以上」の信頼

――ECサイトでは、具体的にはどのような料理を販売していますか。

「普段店で食べているまかないを、フランス料理の技術でブラッシュアップさせたメニュー」です。ハンバーグ、カレー、ラザニア、ポトフといった家庭料理を、フランス料理の理論と技術で綿密に構築し、軽やかに、華やかに洗練させて仕上げました。

お客さまは、家で何を召し上がりたいか? そしてわざわざ「エディション コウジ シモムラ」から料理を取り寄せるのであれば、何を期待なさるのか? を徹底して考えた結果です。

やはりレストランに来ていただくのと、ご家庭で召し上がるのでは、「いちばんおいしい」の内容は異なってきます。ご家族で囲む食卓には、ベーシックな料理がフィットするはず。そこにガストロノミーの力で、非日常のエッセンスを加える。それが、お客さまの笑顔や喜びにつながるのだと思っています。おかげさまで現在までに、予想を大きく超える数量の配送を行ないました。

――6月9日からレストラン営業を再開する予定ですが、その後もECサイトの存在は大きくなりそうですね。

はい、引き続き続ける方向です。大きな可能性を導いてくれることになると思っています。

ただし、本業はレストラン。料理のクオリティ、ご来店いただいての満足度、そうしたレストランの総合力を高める努力は、13年間ずっと積み重ねてきました。これからも真正面から取り組みます。

――その本業のレストランですが、今までとこれからで、変えていこうという部分はありますか。

変える、というわけではありませんが、一つ肝に銘じておきたいのは、今後ご来店いただくゲストの方々は、今まで以上に店を信頼してくださっているということ。

なにしろ世界が一変して、レストランは一時的にせよ「危険な場所」「制限が必要な場所」という認識を持たれるようになった。それを超えて来てくださる。どれほど信頼いただいていることか……。

そんなゲストの方々に、キチッとした料理と時間をご提供する。これが私のやるべきことです。

一方、世間全体のモードが、本質的な温もりを求める方向に進むと思います。それに合わせ、レストランのハード面を、今までのモダンでフォーマルなものから、もっとフラットな……カジュアルではありませんが、ナチュラルな雰囲気に寄せることになるかと思います。料理に関しては、どうでしょう、いくらかは変わるかもしれません。

いずれにせよ、お客さまの信頼にしっかりと応えることを第一に考えています。

――軸を保ちながら、変化に対応する。

はい、これから新しい食のジャンルが生まれる。新たな食を構築できる。そう考えています。

僕たちは、まだ知らない世界へと進んでいる。リーダーとしてスタッフを率いる責任、お客さまに対する責任を全うしつつ進むこの冒険は、刺激的な挑戦です。

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下村浩司
茨城県生まれ。フランスで8年間、三つ星店を含むレストランで研鑽を重ねる。2007年、「エディション・コウジ シモムラ」をオープン。
エディション コウジ・シモムラ
東京都港区六本木3-1-1
03-5549-4562



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