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マルディグラ 和知徹シェフ「温めてきた思いが加速する」

銀座に「マルディグラ」を構えて20年になる和知徹シェフ。豪快な肉料理、世界各地の郷土料理のエッセンスを取り入れた独自の皿の数々で、多くのお客を魅了してきた。流行に左右されずに自らの料理を深める姿勢は、コロナの最中も、これからもぶれることがない。

今回、和知シェフが書いてくれた「Festina Lente」とは、直訳すれば「ゆっくりと急げ」。「よい結果により早く至るためにはゆっくり行くのがいい」という意味の古代ローマ初代皇帝アウグストゥスの座右の銘だ。開高健氏による意訳「悠々と急げ」で有名になった。

和知氏が昔から好きな言葉で、コロナ後の世界、料理人のあり方にこの言葉を重ねるという。

◆マルディグラ(東京・銀座)基本情報
・テーブル22席(通常満席時。現在は半数を使用)
・6月の営業 ディナー プリフィクスコース7500円(様子を見つつ、価格変更の可能性もあり)
・2001年オープン
◆コロナ後の対策
・4月1日からレストランを臨時休業、テイクアウトの販売を開始
・5月中旬から限定的にレストラン営業開始
・6月1日からテイクアウト販売終了。時間・席数を限定してのレストラン営業開始。

――今回のコロナ禍には、どのように対応しましたか。

中国で新型コロナウィルスの感染者が出ているという報道があった1月には、個人的にはすでに危機感を強めていました。

その後、2月、3月になると世間的にもどんどん危機意識が高まってきましたが、実はうちの店に関して言うと、3月の中旬まで満席が続くなど、まったく影響がなかったんですね。

それが一気に変わったのが、3月20日からの連休以降。銀座では、デパートやアパレルの店が自主的に休業するなど、街からどんどん人がいなくなって。うちの店も予約が一斉にキャンセルになり、「これは長丁場になる」「テイクアウトの準備をせねば」と、すぐに包材を買いに走りました。

実際にテイクアウトの販売をはじめたのは4月1日からです。過去のイベントで何度も出してきたオリジナルのハンバーガーをメインに、「トスカーナ・フライドポテト」「ポルトガル風 鴨ごはん」などもラインアップしました。

――マルディグラらしさのある、楽しい内容ですね。

そうですね、この店らしく、おいしく、安全なものにしたかったですから。

ただ、一番大切にしたのは安全性です。素材はしっかりと加熱調理し、ご飯は速やかに冷ましてから盛りつけるなど、食中毒を出さないよう徹底。彩りの美しさではガマンする部分も大きかったです。

他のお店では結構、衛生的に「危なそうだな」と感じるお弁当を売っているところもありましたね。どこのお店もきつい状況で、安全性を重視するより「できるものを売る」とならざるを得ないのも、わかります。でもそれは、やはり本来あってはいけないこと。

今回コロナにどう対応したかということで、飲食に関わる人間として、どれだけ責任感を持って行動できるか? が現れたと思います。

深掘りしながら次に進む

――これからのレストランには、どのような変化が生まれると考えていますか。

今後、お客さまが外食に求めるものが、決定的に変わるでしょう。安心できる食、ホッとできる料理に人々の関心がいくのは明らかです。

いわゆるイノベーティブな料理の世界では、もう何年も「料理で自然を表現する」というコンセプトが世界的なトレンドとなっていましたが、自然を表現するためにあらゆる機材を用いて技巧に走りすぎるという、相反する一面もあったと思います。そうした面でも変化が生じていくのでは。よりプリミティブでシンプルな技術や表現へと回帰しながら、これからのレストランが再生していくような予感を持っています。

――「自然」に対する考え方が変わってくる。

はい、今回のコロナと人間の戦いで、自然を前にしていかに人間社会が脆いか、ということが露わになりました。「自然って何だろう?」ということを、誰もが考えざるを得なくなったと思います。

そして料理人には、「料理とは本来どういうものか?」「本質はどこにあるか?」という問いが今、突きつけられているように感じます。

――「自分の料理はこう変わってゆく」という予想はありますか。

以前から人間の本能が求める料理、肩肘張らずに楽しめる時間を提供することを大事にしてきましたから、その基本的な姿勢は変わりません。ただ、今まで考え続けてきたことを加速させるようになるのでは、と思っています。

私の料理人としてのキャリアはフランス料理からはじまりましたが、今ではフランスに限らず、世界中の素材や伝統料理に興味があります。

また、この数年は、日本各地の食材の産地に訪れる機会に恵まれ、上質な素材や郷土で脈々と作られてきた料理、調味料を知ることも増えています。

世界のいろいろな国を旅して感じたのですが、どこも、その地域の食をものすごく大切にしている。なので僕も、日本の素材や土着の食にはもっと目を向けたい。それにより、自分なりに料理を深掘りしてゆきたいと思っています。

――これから、料理人には、どのような「あり方」が求められると思いますか。

大先輩の落合務シェフ(ラ・ベットラ・ダ・オチアイ)と話していると、背負っているものの大きさに圧倒されます。自分の店に加え、業界全体のことも考えている。そして、前向きで周りを明るく励ます。

飲食店倒産防止対策への署名活動を行ない、実際に成果を引き出した、若い世代も含めた料理人たちの動きも素晴らしいものだと思いました。

「自分の店がよければいい」ではなく、業界や社会に何らかの形で貢献することが、これからの料理人にとってますます大切になってくるはずです。

どんな貢献をするかは、その人次第です。生産者さんを引き立てたり、今まで見逃されてきた郷土の食材に光をあてたり、というのも意味ある活動です。

コロナがなくても、料理人として周囲にどんな貢献ができるか、ということを考えてきた料理人は少なくないでしょう。僕もずっとそうでした。ただ、コロナをきっかけに、その思いや行動に拍車がかかると思っています。

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和知徹
1967年兵庫県生まれ、茨城県育ち。フランスでの研修、都内での修業、料理長経験を経て2001年、「マルディグラ」をオープン。
マルディグラ
東京都中央区銀座8-6-19 B1F
03-5568-0222

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