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ル スプートニク 髙橋雄二郎シェフ 「せめぎ合いを、どう越えるか」 5月2日

4月初旬からレストランを臨時休業し、配送で「シェフの気まぐれBOX」に取り組んでいる「ル スプートニク」髙橋雄二郎シェフ。「時間ができたことで、店のスタイルを良い方向に変えるきっかけが得られた」と話す一方で、やはり気持ちは1日も早い営業再開に向いている。

◆ル スプートニク(東京・六本木)基本情報
・テーブル16席
・ランチコース6500円、ディナーコース1万2000円、1万6000円
・2015年オープン、2017年度版よりミシュラン1ツ星
◆コロナ後の対策[5月2日現在]
・3月下旬にそうざい製造業、菓子製造業の営業許可を取得
・4月1日よりレストランを臨時休業
・4月4日より「シェフの気まぐれBOX」(要予約・配送。2人分1万8000円、税・送料込)などの予約受付を開始。4月中に、毎週月曜日予約締切り、土曜日着で発送するサイクルに。内容の詳細はホームページ参照
・状況を見つつ、5月中に営業再開をめざす。BOXは状況を見つつ続行予定

――レストランは、4月1日から臨時休業しています。

緊急事態宣言が出たのは4月7日ですが、3月の最終週からバタバタと予約のキャンセルが続いて、店を開けても苦しいな、という状態でした。なのでその時点で物販をはじめよう、と決めましたね。どのレストランも考えることは同じと思いますが、「これを機会に物販にチャレンジだ」、と。

そうと決めたら、さっそく、そうざい製造業と菓子製造業の免許を取得。早く動くのが大切と思ったので4月初頭には「シェフの気まぐれBOX」(2人分、税・送料込み1万8000円)の販売を配送のスタイルではじめました。

都心でも住宅地でしたら、テイクアウトもいいと思います。でもこの店がある六本木は、オフィス街と繁華街の入り混じるエリア。しかも人通りの多い道から一本入ったところ。テイクアウトは難しいので、消去法で配送を主軸にしたという面もあります。

――BOXの内容はどのようなものですか。

料理の内容はおまかせとさせていただいていて、お客さまがご自宅で安心して召し上がれるような、定番に近いものを揃えています。たとえば、パテ・アン・クルートやテリーヌ、ポタージュやガスパチョといった料理です。

ただし、それぞれの料理の中身は少し凝るなど、奇抜にならない程度にレストランの技術を生かし、変化をつけるようにしています。

やはり、プロが作った料理ならではのおいしさに、少しでも感動していただきたい。そうすれば、こんな時期ですが、笑顔が生まれたり、前向きになっていただけたりするのではないか、と思っています。

――基本的には週に1度の販売ですが、店にはほぼ毎日来ている、と。

当初はイレギュラーなスケジュールでしたが、じきに週単位のサイクルに固定するように。火、水、木曜に仕込みを行ない、金曜の午前に発送。土曜日にお客さまのもとに届き、週末に楽しんでいただく、という狙いです。

なお土、日、月曜は生産者さんと電話で話し合い、入荷する食材を決める期間。その食材をもとにメニューを決めます。なので、毎日何かしら店でやることはあるのです。

――BOXの手ごたえは、どのような感じですか。

 毎週、注文の数が増えているのでモチベーションは上がりますね。ゴールデンウィークは特に多くの注文をいただき、これがピークになるのではと見ていましたが、その後も続けてほしいというリクエストを結構いただいているので続行を検討中です。

ただし、今いちばんめざしているのはレストランの営業再開。BOXと営業をどのように並行していけるか、探っているところです。

生産者にメリットがあるスタイルを

ーー店を休業しても、料理を販売し続けることで、お客さまとつながり続けることができます。

 そうですね、それは大きいです。がんばって、SNSにも今まで以上に力を入れるようになりました。「今やっていること」をていねいにアピールする、など。実はこういうの、苦手なんですけど(笑)。

僕はどちらかというと職人気質の人間で、「おいしい料理を作っていればお客さまに気づいてもらえる」と考えていたタイプ。でも、それではオーナーシェフとしては足りないな、と今回痛感しました。その壁を乗り越えられたのは、よかったと思っています。  

ーー今、時間があるからできることも、ありますね。

そうですね、中でも自分の中でいちばん大きいと考えているのが、生産者の方々とじっくりと話し合う時間がとれることです。

レストランが稼働しないと、生産者さんも素材の売り先がなくなってしまいます。コロナの影響で困っているのはレストランも生産者さんも同じなので、できるだけ生産者さんに寄り添った内容の料理を作りたかった。まずはオススメの素材を聞き、そこから毎週のメニューを決めるスタイルにしたのはそのためです。

生産者さんとしっかりとコミュニケーションする、というのはずっと願っていたこと。なので、今はある意味、期せずして時間が生まれたため、生産者さんとの関係を強めることができています。

――以前は、その余裕がなかった。

基本的に、毎日新作を考えなければならなかったので、とにかく忙しかったんです。それで、スタッフとの関係も課題が多かったですね。

うちは厨房スタッフが僕以外に3人いますが、結局はほとんどの料理を私が作るという毎日でした。なかなか指示を出すことができない。「これは体制としてよくないな」と普段から感じていたのですが、時間がないので立て直すことも難しい。ジレンマを抱えていました。

それが今は、スタッフにある程度まかせることもできています。今までは僕の独裁政権だったのが(笑)、みんなで考えるようになった。理想的なチームづくりのベースができたように思います。

やはり、1日でも早く営業を再開したい

――5月中にの営業再開をめざしている、とのことです。

そうですね。5月のいつになるかというのはまだ見えないので、具体的な日にちまではわかりませんが……。

やはり、店を守れるかどうかの鍵を握るのは、営業再開です。というのも、いくらBOXの売上が好調といっても、今いるスタッフで作れる量は限られています。最大に売っても、実は得られる売上はこの店の固定費に届かないくらいです。東京は家賃も人件費も高いので。

いろいろな融資や助成金があるものの、それを生かしたとしても今年の経営は苦しくなるというのは見えています。どの店もある程度そうだと思いますが……。

ーー状況を見ながら、できるだけ早く営業を再開しなくてはならない。

はい、でも正直、「なるべく家の外に出ないで」という国や自治体の方針と、「店を開けないと経営が成り立たない」という店側のせめぎ合になると思います。

もちろん、営業時間の短縮など自治体が出している要請に沿いますし、お客さまの数を制限して余裕を持った空間にするなど十分な対応はとります。その範囲内で営業を再開するのが、店を守るために僕ができる最善の選択だと思っています。

やはり、レストランは料理とサービスの総合力でお客さまに喜んでいただく場所。かつ、生産者さんとお客さまをつなぐ場所でもあります。僕もこれから長く店を続けることで、小さな規模ではありますが、その役割を務めたいと思っています。

――コロナの影響でそのほか、変わったことはありますか。

 あ、店のことではありませんが、家族と過ごす時間が増えたのはよかったです(笑)。

今までは子供とご飯を食べる時間がなかったのですが、今は仕込みの日も夕方に帰って、家族で食卓を囲むことができます。こんなに長い時間、家族と過ごす日々はなかったので新鮮ですし、夫婦も親子も皆で同じ方向を向いているので前より仲良くなれたように思います(笑)。これは店のスタッフとの関係でも同じですね。そのことは素直に、嬉しいと思っています。

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髙橋雄二郎
1977年福岡県生まれ。「ル・ジュー・ドゥ・ラシェット」のシェフを経て、2015年に「ル スプートニク」を独立開業。

ル スプートニク le sputnik
東京都港区六本木7丁目9-9 リッモーネ六本木1F
03-6434-7080

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