9-バインミー

【11】2018秋、ベトナム、ホーチミン

一旦弱くなった雨足はやがて勢いを取り戻し、カウンターの前から身動きが取れなくなった。
このまま夜も雨だったら空港での夜明かしは大変だ。
心配と共に空腹も襲って来る。
ニュアンスは違うが、きっちり呆然とする事になった。
しばらくして、心配をよそに弱まる雨足。
順番が逆になったが、エントランスで荷物を回収し、完全に雨が上がった夜のプールサイドに戻る。
18:00
今のうちに何か食べておこう。
典型的なベトナム南部料理といえば、お好み焼き様のバインセオらしいのだが、メニューには無かった。
バインミーと紅茶を頼む。
そういえばH.I.Sのラウンジでもバインミーラスクを試食した。
旅の目的だったとはいえ、これほど度々「バインミー」と名のつくものを食うとは思わなかった。
グエンフエ大通りで買ったものの8倍に当たる200,000ドンというお値段に後で驚く事になるのだが、ホテル ニューワールドのプールサイドバーで食べたバインミーは繊細で上品な味がした。

と、旅行中、どういう偶然か何度も聴いた曲のインストバージョンが流れて来た。
完全に口ずさめるメロディーだが曲名が全く出てこない。
どうしても気になる。
曲が終わるとカウンターの奥でにいちゃんが機械を弄っていて、選曲は彼がやっているらしい。
会計の後、声をかけた。
「I want remember song title, ♩rararara ra ra ra rara ~」
「Nothing's Gonna Change My Love For You.」
「それだ!」

場所をスパのエントランスに移して一休み。
ソファは快適だが、冷房がちょっと肌寒い。俺だけかな。
寒さを誤魔化すように、Nothing's Gonna Change My Love For You. の歌詞を調べてみた。

表現の世界で概要をいうのも違うと思うが、歌詞の概要は以下の通り。

僕の世界に君がいなきゃ毎日は空っぽで夜はすごく長い。
でも君がいれば永遠だ。
こんな想いは初めて。
夢が行きたいところに導いてくれる。
抱きしめて、触れて。君なしでは生きていたくない。

君への愛は変わらない。
僕の愛がどれだけか君は知るべきだ。
世界が変わっても君への愛は変わらない。

進む道が困難でも愛が星の様に輝き導いてくれる。
君が必要なら僕はそばにいる。
君は君のままでいい。
ありのままの君を愛している。

君への愛は変わらない。
僕の愛がどれだけか君は知るべきだ。
世界が変わっても君への愛を変えられるものなどない。

これから夜は長いわ、初めての想いだわ、夢の風景に導かれるわ、ここでもまたもや、ありのままを肯定されて、挙句、ベトナムの国旗よろしく星まで出て来る。
歌詞の内容が状況にぴったり過ぎてちょっと怖いくらいだ。

おまけに歌詞はさながら愛の大サービス状態。
思えば昨夜、俺もまた金髪の男に金を渡し、白いシャツの少女が差し出した皮のブローチはハートだった。
ブローチは慎重すぎて手放したが、あれが本当にフェアトレードなら、渡した50,000ドンだけは誰かに届くはずだ。
夜が明ければ、ハート満載で見た目も味も甘々のミルクティーで喉を潤し、アオザイのお姉さんの美しさを絶賛して本気にはされなかったが、ベッドの上に星とハートをちりばめた感謝のメモをしたためた。
これを書いている最中にも、お姉さんが熱々のお茶を持ってきてくれる。
冷房でやられていたので心底ありがたい。
この旅では、ありのままの自分や、恋と愛の話にやたらと出会うようだ。
あとバインミー。

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