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大学受験の思い出|最悪のオリオン座完成

この週末は全国で共通テストが行われたということで、ニュースを見ますと暗い顔をした受験生が会場へ向かうのを、紅潮した顔の予備校講師らが激励するさまが映し出されていました。毎年のことなのですが、この時期こうした映像を目にするたびに、おれの受験生時代のことが、頭をもたげます。

もう10年以上も前なのですが、おれも東京の大学に行くために彼らと同じように試験を受けたわけなんですが(当時はセンター試験という名前でしたね!)、私立の大学を志願していたおれは、翌月に控えた一般試験の方が重要だったので、センター試験は思い出枠といいますか、入試の雰囲気に慣れる意味合いで受験をしましたので特に思い入れやエピソードはないのですが、英語で自己採点ベースで198点を取ったというのは一生の自慢なのでこれだけ書かせて!!わし198点取りましたわ!!

つい承認欲求がオーバードライブしてしまい、いらん情報を開陳してしまいましたが、本題は2月の私大一般入試。おれはこのとき4つの試験を受ける予定でスケジュールを組みまして、試験の2日ほど前から群馬の田舎を出て、東京大塚の東横インに拠点を構えて試験の支度をしていました。とは言っても、この期に及んでうっかり赤本を解いて結果が出なくてメンタルをやられるのも嫌だったので、単語帳や山川の日本史を片手に山手線に乗り、一周する間にこれ見よがしに読み込んだりしていました。

あの、これは受験生あるあると思うんですが、参考書ってボロボロであればあるほどかっこよくて、使い込んでいる感じがしますでしょう。だから英単語帳のページなんかを必要以上に折り曲げて厚みを持たせたり、敢えてカバーを外してかばんの中に入れて、表紙の塗料が剥げていくのをいいぞいいぞと見守ったりしていたものです。これは参考書におけるダメージ加工ですよね。

だから、山手線の車内で一年かけて作り上げたボロボロの参考書を拡げて、見せつけるように読んでいたわけです。当時は青雲の志に燃えておりましたから、東京モンに負けてたまるかよの気持ちですよね。当然気になるのは車内の視線ですから、単語なんか一つも頭に入っちゃいないんですよ。

そんな調子で半ば旅行気分だったものですから、宿舎に帰ってきますと、旅情がムクムクと湧き上がってきまして、ちょっとホテルのスタッフさんなんかに「おれは明日から受験なんですよ、群馬の田舎から出てきているんです」なんて話しかけたりしてね。「そうですか、頑張ってくださいね」などと東横インのお姉さんから過不足ない激励を賜りまして、満足気に部屋に戻って眠るわけです。

そして迎えた試験当日、初日はお茶の水にある大学でした。当日は薄雲っていて雪が降り出しそうな気配がしました。初めてお茶の水の駅に降り立って、「ここが椎名林檎が19万円の楽器を見て『そんなに持ってないわよ』と思った街か…」と思う等、呑気に構えておりました。

会場は、広い教室に3人ひとかけで机に向かうというものでした。おれの席は3人ひとかけの机の真ん中に割り当てられていまして、直前までダメージ加工を施した単語帳を拡げていました。両隣はいかにも都会っぽくあか抜けた、駿台予備校!河合塾!といった賢そうな風情の女子高生たち。当然、こうした人たちに負けるわけにいくまいと思って今日までやってきましたから、両隣の人たちに見せつけるように単語帳を拡げておりました。もちろん、「このおれのDIESELのダメージ・ジーンズもといダメージ・システム英単語を見てござれ」の気持ちでいっぱいでしたので、英単語など一つも頭に入ってきません。やがて試験開始の時刻となって、用紙が配布されました。

試験が始まります。会場は静まり返って、みな試験用紙に向き合います。おれもまた問題に向き合うのですが、どうも集中しきれない。というのも、おれの前列に座っている受験生3人が、みな体調が優れないのか、鼻を頻繁に啜ったり、咳払いをしていたのです。「体調管理は受験生の基本だろうが、バカめ!」と思いなるべく気にしないようにしていたのですが、一度意識するとどんどん気になってくる。どんどん鼻を啜る音や咳払いなどが耳障りに感じ、だんだん音も大きく、またその頻度も多くなってくるように思えます。ふと気が付くと、鼻をすすっているのは前列の人たちだけではなかったのです。おれの左隣の女子高生、および左右のナナメ後ろの受験生たち2名もどうやら鼻を啜ったり、咳をしたりしています!

折しも国語教科の試験、「なるほどこれが四面楚歌か…」と思うなど。すみませんこれは脚色しました。それはそれとして、まだ右隣の女子高生は鼻を啜ったりしていません!「お前も彼らの啜り音が気になることだろう、このバイブスを共有できるのはこの会場でお前だけだよ…」と一種のシンパシーを感じていたところだったのですが、ふっと、右隣の手が止まったようすを視界の隅で感じました。どうやら難問にあたって考え込んでしまっているようです。

この環境下、考えるにもさぞ集中しづらいことだろうと思っていたところ、なんと、右隣の野郎、貧乏ゆすりを始めたではありませんか!右隣の貧乏ゆすりのリズムに合わせて、カタカタと机の上に置いた予備のシャープペンシルが揺れます。

ここで状況を今一度整理します。前列の受験生3名・左右ナナメ後ろの受験生、そして左隣の女子高生は鼻を啜ったり、咳をしたりしています。そして、右隣の女子高生が貧乏ゆすりをしているという状況。おれを中心として前後左右におれの集中力を妨げる不穏分子がいる、これはまさに、受験における「最悪のオリオン座」が完成してしまったと言えるでしょう!

オリオン座完成!

おれはこの事実に気が付いたとき、もう試験どころではありません。「オリオン座や…オリオン座が完成してしもうた…」と心の中で唱えては、棍棒みたいなイカツい棒を手にしたギリシャ神話風の男の輪郭が東(ひんがし)の夜空にボヤァ…と浮かぶ絵まで想像してしまったり、「おれを三ツ星の真ん中のヤツとして、するとつまり左斜め前に座っているお前は、さしずめ冬の大三角を構成するベテルギウス…!」とどんどん嫌な方向に考えが及んでしまい、たいへん心が乱されてしまったのです!

ここで件のベテルギウスの、机の上に置いておいたティッシュが空調の風に飛ばされてしまったという嘘松を今思い付いたのですが、嘘はよくない。試験は散々な出来で肩を落として試験場を後にし、大塚の東横インに舞い戻ったところでこの日は終わりました。その後、無事第一志望の大学に合格し、そこで4年間を過ごすことができたのですが、毎年受験のシーズンになると、あの日試験会場で構成されたオリオン座のことが、頭をもたげるのです。ベテルギウス元気かなとか。

さて、拙noteの読者のみなさんの中には恐らく受験生はいないとは思うんですが、こうした理不尽な場面に遭遇するのも、受験というものでございます。いつか笑い話に昇華できる日が来るので、ぜひベストを尽くしていただきたいということを申し添えまして、受験生へのエールにかえさせていただきたいと存じます。そんな感じです。

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