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きのこと鹿と茅葺と。芦生の森で感じた多様な生命のせめぎ合いと人の暮らし。【芦生の森・美山町フィールドワーク 体験レポート】

 あいだラボメンバの坂上萌です!
今回は、芦生の森・美山町で開催されたフィールドワークに参加して感じたことや自分の変化を執筆したいと思います。

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芦生の森・美山町フィールドワーク :みえざる存在とのつながり -菌類ネットワークと里山と茅葺と-(11/12-14)

今回のフィールドワークは、京都大学フィールド科学教育研究センター特定教授赤石先生の事前オンラインセッションを受けて、参加を決めました。

地中に深く広くネットワークを持ち、多様な生物と共生関係を築くキノコの生態を理解することは、自然との付き合い方にヒントを与えてくれるのではないかと思い参加しました。実際に現場に足を運び、先生や参加者と対話を深めたことで、学びを心身で理解・実感することができました。

芦生の森・美山町のフィールドワークで感じたこと

 1日目は芦生山の家に宿泊をし、2日目に芦生の森のフィールドワークを行いました。2日目の夕方から、観光農園江和ランドに移り、3日目は美山かやぶきの里を訪ねました。宿を経営する地元の方やガイドの方に説明をいただきながら、さまざまな生き物の活動から成る森の生態系や、長年自然と寄り添い、闘ってきた里山の村の営みを学びました。

芦生の歴史とエコトーンが生み出す独自の生態系

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芦生研究林は 大正10年に、学術研究と演習を目的として99年間の地上権を京都大学が設定し今日まで地域と大学の人々に利用され親しまれてきた原生林です。

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芦生の森は、気候区分では日本海型と太平洋型の移行帯(エコトーン)に位置し、植生では暖温帯林と冷温帯林の移行帯に当たるため、独自の多様な生態系を観察することができます。芦生山を水源とする由良川は日本海に流れています。芦生の森は大きな木が立ち並び、静かで穏やかな場所でした。

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今回は沢沿いに広がる渓畔林を中心に、ガイドの岡さんにナビゲートしていただきながら、生き物一つひとつを手に取り、観察し、匂いを嗅いで、芦生の森の生態を学びました。

生態系の直接的な食べる食べられるの関係性はもちろんですが、生き物の住まいが他の生き物へと繋がるような間接的な関係性を知ることができました。

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さまざまな生命が寄り添い、せめぎ合い、利用しあって生きている。そこには私たちが普段考えているような個と個の境界線が曖昧で、多重で多様な生命がおりかさなる世界が広がっていることを身体で実感しました。奥へと進むたび、段々と森の植生一つひとつが意味をおびてくる空間はとても心地よいものでした。

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鹿の食害と回復が間に合わない森の生態系

芦生の森には立派な樹木がそびえ立つ一方で、下草や稚樹がほとんどなく、スカスカしている印象を受けました。芦生の森では2000年以降増加した鹿によって下層植生が食べ尽くされていました。増えすぎた鹿が森の植生を壊している事例は全国的に見られる問題であります。芦生の森でも鹿対策で囲われたエリアと比較するとその差は顕著でした。2000年のピーク時には15-20頭/haほどだった頭数が、現在は3-4頭/haほどに落ち着いてきているそうですが、それでも、再生できないほど下草が食べ尽くされてしまったことで昆虫が減り、鳥が減り、本来あったであろう森の香りや音、生命の気配が少ないように感じました。

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芦生山の家を経営されている今井さんからお話を芦生の森と地域について伺いました。過去にダム建設に反対し、合意を取り付けるなど、京都大学と地元の人が共に芦生の森を守ってきた歴史は印象的でした。

大正10年よりはじまった芦生研究林の99年契約が昨年終了となり、新たに30年延長されることが決まりました。生態系が回復できないほど、破壊されている森はどのように回復していくのか。そして人はどのように関わっていくのか。未来へ森を残していくことは芦生に限らず、私たちの課題であります。自然と人間が闘ってきた芦生には自然のなかで生きる強かさと社会のなかで自分たちが森を守っていくという主体的な精神が継承されていました。

美山で感じた人と自然の共生のあり方

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2日目の夕方から、美山に移動をし、観光農園江和ランドに宿泊。3日目は美山かやぶきの里を訪ねました。

美山町では新幹線問題が議論をよんでいます。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは北陸新幹線敦賀-新大阪ルートを小浜・京都・松井山手を通過するルートとすることを決定しました。2022年末には現在建設中の金沢―敦賀間が開通し2023年春に開業予定だそうです。

江和ランドの大野さんに新幹線が美山町知井を通ることが住人に知られていなかったため、勉強会を開くことや関心を集めること、信頼を得ることから活動されていました。新幹線が通ることで与える影響が未だわからないなか、開通する地域の住民が知らない間に進められる開発計画に疑問が残りました。

初期にこの計画がつくられた48年前から時代も変わっています。新幹線開通に賛成か、反対かという二項対立的な選択肢ではどうしても分断が生まれてしまうと感じます。創りたい未来を十分に議論しながら、地域の人たちが関わりながらさまざまな方法を検討できることを願います。

美山町知井の新幹線問題を考える
https://miyama-no-shinkansen.net


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かやぶきの里では、北村という茅葺の保存地区を見学しました。
ここには、約220年前〜 150年前に建てられた茅葺き屋根の家屋が多く残されています。歴史的景観の保存度が高く評価され、美山北集落は1993年に、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。選定当時から住人の方が一丸となって守ってこられた伝統があります。

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かやぶき屋根は、暮らしの中で囲炉裏の炭素が次第に付着していき、葺き替えのあと再び畑に土に戻されることで、豊かな土地の循環を生み出していたといいます。自然の時間軸に組み込まれている循環する暮らしの知恵を学びました。

さいごに

芦生の森・美山町のフィールドワークを通して、里山の過疎化が進む中、人が手を入れることで形成されていた、人と自然のあいだの生態系は非常に重要だったのだと感じました。

芦生の森で、直接的なものから、間接的なものまで、簡単に構造化できない共生関係が絡み合った世界があったように、衰退を経験している里山の機能にも、長年積み重なり明文化されていない自然との共生がありました。これからも自然と人間社会のあり方を再考する必要があります。厳しい自然と長年築いてきた知られざる共生の形が里山の伝統にあるように思います。


noteプロフィール写真

【執筆者 / 坂上萌】
同志社大学文学部在学中。中世エジプトにおける農業と経済を研究。生態系と都市デザインをテーマに、サステナブルファッションの分野で活動。兵庫県在住。

【あいだの探索・実践ラボ】
あいだの探索・実践ラボは、これからの時代のヒトと環境の関係性を二元論を超えて問い直し、再生・共繁栄的な未来に向けてコトを起こしていくための探索・実践型の共同体です。あいだの回復・生成をテーマに、エコロジー×ビジネス×デザインの各領域を横断した学び直しと、各地でパートナーと展開するフィールド体験を通じ、理論・身体実感・風土に根ざしたプロジェクト・事業を起こしていくための運動体を目指しています。
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【一般社団法人 Ecological Memesについて】
エコロジーや生態系を切り口に様々な学際領域を横断する探究者・実践者が群れていく共異体として活動。人が他の生命や地球環境と共に繁栄していくリジェネレーションの時代に向け、個人の生き方やビジネスの在り方、社会実装の方法論を探索しています。
https://www.ecologicalmemes.me/

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