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みんながパパとママ   -ドリーム号のオープニングの話-

はじめに

5隻目の船、ディズニーウィッシュ号ができましたね♪ これから2025年までに新しい船は3隻予定されているとのことでワクワクが続くDCLです。

ウィッシュはドリームやファンタジーと同じくドイツの造船所生まれです。ドイツで造船し、形ができたらクルーのみんなはドイツから船に乗り、その完成した船と一緒にフロリダのポートカナベラルまで一緒に帰って、これまで3隻の船をオープンしてきています。

今回はドリーム号という大きな船をどのようにオープンしてきたか、そんな私のドリーム号の体験談を書いてみます。(ファンタジー号はRemyのことになるのでまた別途ご紹介します。)
とても時間をかけて書き、気を遣って書いておりますが、もちろん、クルーの裏話などは読みたくないという方はお気持ちが健やかなままでいられるようこちらの記事は読まれないことをお勧めいたします。お楽しみいただければと思います。


オープニングチームに

よく聞かれるのが「クルーの人は船は好きな船をリクエストできるのかどうか。」という質問です。

答えは「リクエストは出すことができるが確約はない」です。

私はもともとヨーロッパ系の人たちに船に乗る前から縁があったため、ずーーっとヨーロッパ航海をするMagic号に乗りたかったのですが、最初の配属はWonder号でした。それから経験を積み、Dream号のオープニングクルーに選ばれた時はとっても嬉しかったのを覚えています。(新しい船は選抜制でした)

でもこの時はピュアに嬉しいという気持ち。
その時は、オープニングクルーということの重大な責務がよくわかっていなかった部分がありました。

ただただ純粋に、

「わーい!新しい船に乗れる!楽しそう!ワクワクする!」
「Wonderよりも大きな船ってどんな感じだろう!すっごく楽しみ!」
という純粋でハッピーな気持ちでいっぱいでした!

「大きな船」に「新しい船」という、そんなキーワードしか情報が当時は全くなかったのです。
そして、まさかのフロリダではなく、ドイツから仕事が始まるなんて契約書が来るまで全然聞いてなかったし、季節も冬から乗船するっていうことも知らず。笑 (日頃バハマの暖かいところで過ごしてる私たちはドイツのとっても寒い気候になれるのも大変なことで。笑)


ドイツで雪でいっぱいになったドリーム号。雪だるまも。


オープニングとはそういうものです、ヒッチャカメッチャカで、蓋を開けたらびっくりすることがいっぱい!
それにみんなハイスピードでついていく必要があります。文句や不満をいう暇はなく過ぎていく1日1日がとても早く重要なのです。

私は念願のヨーロッパ圏で仕事ができる!ということが嬉しくって嬉しくってDreamのオープニングクルーになれて100%ハッピー。

でも他に誰が選抜されているのか、どれだけの人数がWonderやMagicからDreamへオープニングクルーとして選ばれているか。という情報は事前に聞かされてなかったため、ドイツに行くまでのお楽しみでした。
「誰が乗っているんだろう!知ってる人、いっぱいいるかな?!楽しみ!」

ドイツの造船所

2010年11月にアムステルダムの空港に飛び立ちました。
そこには仲の良かったクルーたちもいてみんなでワイワイ空港でご飯食べたりしていました。衝撃だったのはアムステルダムで開催予定のはずだったトレーニングがキャンセルとなり、アムステルダムの空港からまさかの超鈍行バスで半日かけてドイツの造船所に移動するという突然のお知らせもあり。
(そしてバスの運転手さんが荷物を下ろし忘れてスーツケースが2日後に届くという面白いスタートもあり。ね、楽しいんです。笑)

ドイツの造船所に到着し、実際に船の外観を目にするとワンダー号に比べてかーなり大きくてみんなで圧倒されました。
そして、
まず驚いたのは、まだ船の中に何もないことでした! 何もです。
あ、カーペットは貼ってあったよ。

え、レストランにテーブルや椅子がなくない?!

そう、このテーブルや椅子を港から船に運ばれたものをレストランの中に運んで、配置するのも私たちレストランサービスチームの手によるものだったのです。衝撃!
そして、数日後に大量の段ボールが届きました。キャリーでそれらを搬入するのも私たち。
お皿やカトラリーがどっさりとやってきて、あっという間にレストランでの視界が見えなくなるほどの大きな段ボールの壁ができました。

お皿などを一つ一つ検品していくのも私たちレストランサービスのクルーの仕事で、出来上がった美しいお部屋の中にレストランを1から作るところからスタートしました。歌いながら、音楽かけながら。本当に面白かった。
角の方では装飾品をイマジニアの方が丁寧にまだペイントしていたりします。
でも、みんなこういう1からのスタートということがとっても楽しくて!それに全ての食器の検品という終わりの見えないミッションは、ワンダー号とマジック号からで集められた仲間と交流を深めていくとても充実した時間でもありました。

可愛いカップ裏の絵♪ 乗船時には是非見てみてね!


夜は24時間体制でパトロールシフトがあり、夜中にディズニー外部会社の工事のおじさんたちがレストランに入ってきたら「ハロー!」と声をかけるというお仕事もありました。(ハローというとおじさんたちはレストランから出ていきます。←怪しいの!)

でもそれはすっごく楽しくって毎日笑いながらみんなで新しいドリームのクルーファミリーとの時間を楽しみました。
この時はまだワンダー号、マジック号と既存の船から働いている仲間だけが乗船していて、新人のクルーは乗船していませんでした。

メインのダイニングルームは船には3つあります。
ドリームの場合、
エンチャンテッドガーデン、
アニメーターズパレット、
ロイヤルパレス
の3つがあり、それぞれのレストランに3つのチームに分かれてオープニング作業を行なっていました。
私はロイヤルパレスの立ち上げのチームにいました。

このチームにはワンダー号、マジック号それぞれ6名ずつが選抜で入っていて、12名で仲良くお皿の検品や夜中のパトロールをしていたのです。
「この後、誰がワンダーやマジックからやってくるんだろうね!楽しみだね!」って話をしていました。

タイムオフもあり、ドイツの造船所からクルーのためにバスが定期的に出ており、外で美味しいシーフードビスクを食べたり、冬だったのでクリスマスマーケットに行ったり、とっても楽しかった!
でも普段バハマでぬくぬく過ごしてきたワンダー号からの私たちにとってはドイツの造船所はとっても寒く、逆にヨーロッパに慣れていたマジック号の人たちはバハマに行ったことがないので感じてることが違ったりが面白かった。


メインダイニングルームの初期メンバー。接近中のマジック号を背景に。

みんながパパママ

Mama! Papa!

年齢は関係ない、国籍も肌の色も関係ない。船ではみんながみんな、パパとママです。
年上の方からもママと呼ばれる。そう呼び合うことでとっても近い距離にいられる気がするし、リスペクトされている感じもする。とっても不思議な関係性でした。
なので私は世界中にママパパがいて、また私もたくさんの友達のママだったのです。
でも、ドリーム号のオープニングは、このオリジナルの船であるワンダー号、マジック号から選抜でやってきた各チーム12人のチームが、新しくドリーム号を育てていく責任のあるパパママである必要がありました。

なんせ、レストランの中は段ボールで埋まっていたものですから、私たちはレストランがどれだけ広くて何個のテーブルがあるのかとか、キッチンまでどれほど遠いのかとか何にも把握していない期間が長かったのですが、
そう、いよいよ、検品も終わり皿なども各テーブルステーションの棚にしまって、初めてその広さにびっくりしました。
そしてゲストが4000人乗る、クルーは1500人乗る船であることをあらためてじわじわと感じることになりました。

なんとかレストランらしくなった頃、新人のクルーが船に乗ってくるという知らせが来ました。
そして驚いたことは、ワンダーやマジックからは追加クルーがオープンまでいないことでした。
ダイニングの新人クルーが300人、それに対してワンダーマジック勢は、12x3チームで40人程度。
突然自分たちの責務、この新しくオープンする船の軸となる文化であったり、ディズニーらしさであったり、フードのセーフティーであったり、そういったものが私たち既存グループのパパママにあるということに直面することになりました。

そして、私たちはディズニートレーナーの研修を受ける予定だったもののオープニングには間に合わないことがわかったため、ぶっつけで「今からWelcomeセッション」を新人にやってください。というオーダーをもらうこともありました。
アドリブです。それくらいこの12人の古株DCLクルーが、100人のミッキーもミニーも区別がわからない状態の新人クルーの前で、この「表題:Welcomeセッション」を自分たちで作ることができるという信頼が置かれていたとも言えます。
100人を前にするので声もかなり張り上げないと聞こえない笑
そこで、いくつかグループに分かれて指導することにしました。

サービスを1から何も学習資料が船に乗ってきてない(おそらく到着しなかったものとみられる)状態で、口頭で一つずつ伝承するのです。
特にディズニークルーズではメニューの口頭説明に力を入れています。
別の記事でも書きたいと思っていますが、クルーズの最後にはアンケートがあります。そのアンケートの項目には、「料理のクオリティはどうだったか」という項目があります。ここもレストランのサーバーさんたちの成績の一部です。
なぜかというと、そのゲストの好みに合わせたメニューをアドバイスするミッションはサーバーにあるからであり、ゲストが納得して好みの味の料理を体験することも重要視しているからです。
このメニューの中身はこれとこれが入っていて、こんな調理法ですという勉強会を行った後、あなたならどのように料理を説明し、ゲストの心を掴みますか?というトレーニングも行います。(この手法はHook Line Sinkerと言いますがまた次回書きます)


ドリーム号は広いので料理を長距離で運ぶのも大変。


レストランの経験もあまりないクルーもいます。そんな時は、お皿の下げ方やカトラリーのステージングの仕方から小さなことから一連のサービスをシミュレーションして一緒に横について夜まで指導しました。
レストランや他の船での経験があるクルーもいます。この場合、他の場所での文化とディズニーの船での文化は違うということを重要視してもらわなくては行けないので、これは私たちパパママをみて、同じように振る舞ってもらいたいと願いを込めてそこに好意的に思っていただけるように本当に冗談を毎日言い合いながら、尊敬しながら過ごすことで、自分たちだけがパパママだったところから新人クルー全員がディズニーのパパママに成長するのです。
そしてこの頃のドリーム号の自分達が指導してきた新人クルーが今はウィッシュ号で、ヘッドサーバーやサービスエクセレンストレーナーになっていたりと、何年経ってもこの時私たちが伝承してきたことが新しい船へとずっと引き継がれているのだなと感じ、じわっとくるものがあります。
ロイヤルパレスオープニングのチームは本当にみんなフレンドリーで向上心でいっぱいの温かいチームでした。
みんなでこの自分の家のように育ててきたレストランにゲストを早く迎え入れたい気持ちで前向きに過ごしてきました。


ドリーム号クルーだけの年越しカウントダウンパーティーの様子。

荒波の大航海16日間

ドイツを出発し、アメリカのフロリダまで戻る。
この間はとっても揺れました。
揺れ具合は凄くて、キッチンにあるお皿が全部綺麗にドミノ倒しになって割れていく様子を見ることも、料理を温めるために湯を張っていますが、その湯が溢れて床が洪水になったりと、みんなで笑って見るしかなかったです。
窓を眺めていると、「あ!空だ!」「あ!海だ!」と交互に見え映るほど揺れていました。
どんなハプニングや困難もみんなで笑って励ましあう本当に温かいチームでした。
この大航海16日の間は、DCL関係者やWDW側のマネージャー、キャストメンバーがクルージングしていたので、私たちがレストランでの仕事の練習にもなっていました。
私は新人さんたちがサービスする様子を観察して常にフィードバックを渡していました。テーブルで食事をしているのは関係者やオーランドのキャストメンバーです。彼らに素直な意見を聞いて、その日のうちに改善できるように新人のみんなに共有します。
今日できなかったことは明日もっと良くなっていく。
この大航海16日はフロリダにたどり着いたら勝負なのでみんな、必死に練習を重ねていました。
そういえば、この頃はワンダー号は3日間、4日間という短期スパンのクルーズ旅程でしたが、マジック号はヨーロッパクルーズ7日間やそれ以上の長期クルーズでした。そのため、マジック号から来た人たちはたった3日間、4日間でゲストの満足度を高めるというスピーディーな時間軸にとても苦戦されていたようにも思いました。
ドリーム号もワンダー号と同じく3日間、4日間の航路でした。このため、新しい船でのチャレンジにプラスして、短い期間でゲストに最高の体験と満足度をお土産にしていただくことを目指すのは本当に大変なミッションだったと思います。


ドリーム号がポートカナベラルに戻ってきた時に
港のキャストメンバーが迎えてくれました。


長くなるので、ドリーム号をオープンしたパパママのお話はここで終わりにします。
また思い出すままに振り返っては記録として残していきたいと思います。

その2も書こうとは思っています。


サポートをお考えいただきありがとうございます。 これからも楽しい記事をかくためのモチベーションとして大切にお気持ちを受け取らせていただきます。